目次
概要
Aquanty HydroGeoSphere(HGS)は、地表水と地下水を一つのモデル内で統合的に解析する、物理ベースの水文モデリングプラットフォームです。
地表水のみ、あるいは地下水のみを個別に解析するのではなく、降雨、地表流、浸透、地下水流、蒸発散など、水循環を構成するプロセスを相互に関連付けながらシミュレーションできます。
地表領域では2次元の地表水流、地下領域では3次元の飽和・不飽和流を扱い、地表水と地下水の間で発生する水交換もモデル内で計算します。
また、水の流れだけでなく、溶質輸送、反応性輸送、密度依存流、熱エネルギー輸送、亀裂流、積雪・融雪、間隙水の凍結・融解、粒子追跡などにも対応しています。
小規模なフィールドレベルから大規模な流域まで、解析目的に応じた水文モデルを構築できます。
HydroGeoSphere(HGS)について
実際の水循環では、地表水、土壌水、地下水は独立して存在しているわけではありません。
雨水は地表を流れるだけでなく、土壌へ浸透して地下水となり、地下水が河川や地表へ再び流出することもあります。
一般的な水文モデルでは、地表水モデルと地下水モデルを別々に構築し、両者の間で情報を受け渡す方法が利用される場合があります。
HydroGeoSphereでは、地表・地下など異なる領域を一つの統合モデルとして扱い、相互作用を含めて数値計算します。
これにより、
- 降雨から地表流・浸透・地下水への移動
- 地下水から河川・地表への流出
- 河川や地表水から地下への浸透
- 土壌水分と蒸発散
- 地表水と地下水の間の交換
などを一つの物理システムとして解析できます。
HGSの3つの基本特長
HydroGeoSphereには、統合水文モデリングを支える3つの基本的な特長があります。
- Control Volume Finite Element Simulator
- Fully Integrated Flow and Solute Transport
- Tightly-Coupled Numerical Implementation
Control Volume Finite Element Method(CVFEM)
HydroGeoSphereでは、Control Volume Finite Element Method(CVFEM)を用いた離散化が採用されています。
CVFEMは、有限要素法(FEM)の形状への柔軟性と、有限体積法(FVM)の保存性を組み合わせた数値解析手法です。
各メッシュノードにControl Volume(支配体積)を設定し、それぞれの領域に対して局所的な質量収支を計算します。
HydroGeoSphereでは、この仕組みによりMass Conservative(質量保存)を重視した水文シミュレーションを実行できます。
流れと溶質輸送の完全統合型解析
HydroGeoSphereでは、地表水と地下水の流れだけでなく、溶質輸送についても地表・地下領域を統合して扱うことができます。
水の移動とともに発生する移流、分散、拡散などの輸送プロセスと、領域間における物質交換をモデル化できます。
水量だけではなく、水とともに移動する物質の挙動を評価したい解析にも利用できます。
Tightly-Coupled Numerical Implementation
HydroGeoSphereでは、Tightly Coupled(密結合)方式によって複数の水文領域を連成します。
別々のモデルを順番に計算して結果を受け渡すLoosely Coupled方式とは異なり、HGSでは各領域の支配方程式を一つの係数行列に組み込み、同時に解きます。
地表、地下、チャネル、亀裂など異なる領域間の相互作用を、単一の数値計算システムとして扱うことができます。
HydroGeoSphereの主な解析機能
3次元地下水・不飽和流解析
地下領域では、Richards' Equation(リチャーズ方程式)を使用して3次元の変動飽和流を解析します。
飽和地下水だけでなく、不飽和帯における土壌水分の変化も同じモデル内で扱うことができます。
地下領域の流束計算にはDarcy-Buckingham Equationが用いられ、相対透水係数は土壌飽和度に応じて計算されます。
土壌水分特性にはVan GenuchtenおよびBrooks-Coreyの関係式を利用できます。
2次元地表水解析
地表領域では、Diffusive Wave Equation(拡散波方程式)を用いて2次元の地表水流を計算します。
河川、氾濫原、地表面を広がる比較的緩やかな流れなどをモデル化できます。
地表面における流束計算にはManning Equationが使用され、地表面粗度をモデル特性として設定できます。
蒸発散
HydroGeoSphereでは、Evapotranspiration(ET:蒸発散)をモデルに含めることができます。
ユーザーがPotential Evapotranspiration(PET)を境界条件として設定し、植生特性、地下の飽和状態、降雨分布などを考慮してActual Evapotranspiration(AET)を計算します。
AETには、キャノピー蒸発、地表面蒸発、地下からの蒸発、地下からの蒸散などが含まれます。
溶質・反応性輸送
HydroGeoSphereでは、地表領域と地下領域の両方を対象とした溶質輸送解析に対応しています。
地表水と地下水の間で発生する溶質交換を含め、移流・分散などの輸送プロセスを統合的に解析できます。
また、Reactive Transport(反応性輸送)にも対応しています。
その他の物理プロセス
HydroGeoSphereでは、統合された水文解析に加えて、次のような物理プロセスを扱うことができます。
- Reactive Transport(反応性輸送)
- Density Dependent Flow(密度依存流)
- Geothermal Energy Transport(地熱エネルギー輸送)
- Native Snowmelt / Accumulation(積雪・融雪)
- Pore-water Freeze / Thaw(間隙水の凍結・融解)
- Fracture Flow(亀裂流)
- Particle Tracing(粒子追跡)
対応するモデルドメイン
HydroGeoSphereでは、異なる支配方程式を持つ複数の「Domain」をモデルに組み込むことができます。
| Domain | 解析対象 |
|---|---|
| Porous Medium | 地下の多孔質媒体 |
| Dual Continuum | 二重連続体 |
| Surface / Overland Flow | 地表水・地表流 |
| Fracture | 亀裂 |
| Channel | 河川・チャネル |
| Well | 井戸 |
| Tile Drain | タイルドレイン・暗渠排水 |
| Evapotranspiration | 蒸発散 |
地表水と地下水だけでなく、河川、水路、井戸、排水設備、亀裂などを同じ解析モデルに組み込むことができます。
モデル構築とGISデータ
HydroGeoSphereのモデル設定は、基本的に.grokファイルを使用して行います。
.grokファイルにはモデル構築に必要な各種コマンドを記述します。
一般的な.grokファイルには、次のような項目が含まれます。
- Problem Description
- Grid Generation
- General Simulation Parameters
- Material Definition
- Initial Conditions
- Boundary Conditions
- Numerical & Timestep Settings
- Output Control
グリッド・メッシュ生成
シンプルなグリッドは、Grokのコマンドを使用して直接生成できます。
利用可能なグリッド生成機能には、Uniform Blocks、Uniform Prisms、Variable Blocks、Variable Prismsなどがあります。
局所的な細分化や三角形プリズムを利用する複雑なメッシュについては、外部のメッシュ生成ツールを利用できます。
三角形メッシュでは、関心領域を細かく分割したり、実際の境界形状に沿ったメッシュを生成したりすることができます。
AlgoMeshとの連携
HydroGeoSphereでは、三角形有限要素メッシュの生成にAlgoMeshを利用できます。
AlgoMeshでは、GISまたはCADデータから取得したPoint、Polyline、Polygonなどを利用してメッシュを構築できます。
HGS用の2Dメッシュファイルや、ノード・要素選択ファイルを出力できます。
※AlgoMeshはHydroGeoSphereとは別のソフトウェアです。
GIS・ラスターデータ
HydroGeoSphereでは、モデル構築時に各種GISデータを利用できます。
ラスターデータは、標高や空間的に変化するモデル入力値を設定するために使用できます。
- ASCII Raster
- GeoTIFF
- netCDF
- Multi-band Raster
また、Shapefileにも対応しており、Point、Polyline、Polygonを節点や要素の選択などに利用できます。
標高、材料ゾーン、降水量、蒸発散量など、位置によって変化するデータをモデルへ反映できます。
基本ワークフロー
HydroGeoSphereの基本的な解析ワークフローは次のとおりです。
- .grokファイルを作成・設定
- grok.exeを実行
- phgs.exeを実行
- hgs2vtu.exeまたはhsplot.exeで結果を変換
- 解析結果を確認・可視化
GROK → PHGS → HGS2VTU / HSPLOT → Visualization
grok.exe
grok.exeは、モデル定義や設定を記述した.grokファイルをコンパイルし、HydroGeoSphereの数値シミュレーションで使用する入力ファイルを生成します。
phgs.exe
phgs.exeはHydroGeoSphereの数値シミュレーションを実行するプログラムです。
SerialまたはParallelでシミュレーションを実行できます。
hgs2vtu.exe / hsplot.exe
phgs.exeが生成する解析結果はバイナリ形式で保存されます。
これらを可視化するために、hgs2vtu.exeまたはhsplot.exeを利用します。
- hgs2vtu.exe:ParaViewで利用できるVTU形式へ変換
- hsplot.exe:Tecplotで利用できる形式へ変換
数値解析・計算機能
HydroGeoSphereには、大規模・複雑な統合水文モデルを計算するための数値解析機能が用意されています。
- Fully Implicit Numerical Solution
- 局所・全体の質量保存
- 複数のソルバー
- Local Parallelization
- Adaptive Timestepping
- Particle Tracing
- Dynamic Meshing
- Hydraulic Mixing Cell Formulation
Adaptive Timestepping
HydroGeoSphereでは、解析中の状態変化や収束状況に応じてタイムステップを調整できます。
Head、Saturation、Water Depth、Newton IterationなどのControl Variableを利用して、次のタイムステップサイズを決定できます。
輸送解析では、Concentration、Mass Change、Mass ErrorなどもControlとして利用できます。
降雨などの境界条件が変化して流れが大きく変化する場合には、タイムステップを縮小し、変化が小さい場合にはタイムステップを拡大することで計算を進めます。
解析結果の出力と可視化
HydroGeoSphereでは、モデルの各Domainに対して各種Geospatial Outputを生成できます。
主な出力項目には次のようなものがあります。
- Hydraulic Head(水頭)
- Pressure Head(圧力水頭)
- Saturation(飽和度)
- Velocity(流速)
- Surface Water Depth(地表水深)
- Depth to Groundwater Table(地下水面までの深さ)
- Exchange Flux(領域間交換流束)
- Surface Flow Rate(地表流量)
- Internodal Flux
- Volumetric Water Content(体積含水率)
- Evapotranspiration関連データ
Geospatial Outputには、指定された出力時刻における各ノードの解析値が保存されます。
hgs2vtu.exeを利用することで、解析結果をParaViewで3次元表示できます。
hsplot.exeを利用したTecplot形式での可視化にも対応しています。
ユーザー定義出力
HydroGeoSphereでは、モデル全体の空間出力だけでなく、解析目的に応じたUser Defined Outputを設定できます。
| 出力機能 | 概要 |
|---|---|
| Observation Point | 特定ノードにおける解析結果を時系列で記録 |
| Observation Well | 複数ノードから構成される観測井のデータを記録 |
| Surface Flow Hydrograph | 指定した地点における地表流量のハイドログラフを出力 |
| Soil Water Balance | 土壌・地下・地表などに存在する水量を時系列で記録 |
| Water Table | 地下水面の標高や地表面から地下水面までの深さを追跡 |
| Polygon Tracking | 指定した領域における水収支を追跡 |
| Fluid Volume | 選択した要素・領域内の水量を算出 |
主な活用分野
HydroGeoSphereは、地表水と地下水を分離せず、水循環全体を評価する必要がある解析に利用できます。
流域・水資源解析
降雨、地表流、地下水、蒸発散などを統合し、流域における水の移動を物理ベースで解析できます。
観測データが少ない地域を含め、水文応答や水収支の評価に利用できます。
地表水と地下水の相互作用
河川、湿地、地下水などの間で発生する水交換をモデル化できます。
降雨後の浸透、地下水涵養、地下水から地表への流出などを一体的に評価できます。
洪水・水管理
河川や氾濫原などにおける比較的緩やかな地表水流と、地下水・土壌水分の変化を組み合わせて解析できます。
地形条件や水文条件を変更し、その影響をモデル上で比較することも可能です。
鉱山・造成地などの設計評価
HydroGeoSphereでは、地形形状を変更した場合の水文応答を物理ベースで評価できます。
鉱山閉鎖時の地形設計や洪水対策など、Designed Topographyの評価にも利用できます。
汚染物質・溶質輸送
地下および地表における水の流れとともに、溶質がどのように移動するかを解析できます。
地表水と地下水の間の物質交換を含めた統合的な輸送解析が可能です。
寒冷地の水文解析
積雪・融雪および間隙水の凍結・融解プロセスをモデルに含めることができます。
インストールパッケージとユーザーリソース
HydroGeoSphereのインストールパッケージには、解析に必要な実行ファイルのほか、ドキュメントおよび検証・例題モデルが含まれています。
主なマニュアルには次のものがあります。
- Theory Manual:水文システムの概念化および数値実装を解説
- Verification Manual:付属する検証例・サンプルモデルを解説
- Reference Manual:モデル入力・出力およびGrokコマンドを解説
インストールには30件以上のサンプル.grokファイルと関連データも含まれており、モデル設定やコマンドの確認に利用できます。
Aquantyでは、マニュアル、ユーザーコミュニティ、チュートリアル・トレーニング資料、ブログ、YouTubeのトレーニング動画などのユーザー向けリソースも提供しています。
FAQ(よくある質問)
HydroGeoSphere(HGS)はどのようなソフトウェアですか?
A:HydroGeoSphereは、地表水と地下水を同一モデル内で統合して解析する物理ベースの水文モデリングプラットフォームです。
3次元の飽和・不飽和地下水流、2次元地表流、蒸発散、地表・地下間の水交換、溶質輸送などを扱うことができます。
一般的な地下水モデルとの違いは何ですか?
A:地下水だけでなく、地表水との相互作用を同じ解析モデル内で扱える点が大きな特長です。
河川・地表流、地下水、土壌水分、蒸発散などを相互に関連する水循環として解析できます。
地表水と地下水はどのように連成されますか?
A:HydroGeoSphereでは、地表・地下など各Domainの支配方程式をTightly Coupled方式で一つの数値システムとして計算できます。
Dual Node Formulationを利用して、Domain間の水交換を明示的に扱うこともできます。
不飽和帯を解析できますか?
A:はい。地下領域ではRichards' Equationを使用して3次元の変動飽和流を解析します。
地下水面より上の不飽和帯から飽和地下水までを連続的に扱うことができます。
GISデータを利用できますか?
A:はい。
ASCII Raster、GeoTIFF、netCDFなどのラスターデータをモデル構築時に利用できます。
Multi-band Rasterにも対応しており、ShapefileのPoint、Polyline、Polygonを節点・要素の選択などに利用できます。
解析結果をParaViewで確認できますか?
A:はい。
hgs2vtu.exeを使用してHydroGeoSphereの解析結果をVTU形式へ変換し、ParaViewで2次元・3次元表示できます。
Tecplotで解析結果を確認できますか?
A:はい。
hsplot.exeを利用してTecplotで読み込める形式へ解析結果を変換できます。
特定地点の地下水位や流量を時系列で取得できますか?
A:はい。
Observation Point、Observation Well、Surface Flow Hydrograph、Water TableなどのUser Defined Outputを利用できます。
水収支を確認できますか?
A:はい。
HydroGeoSphereでは各タイムステップの詳細なWater Balanceを記録できます。
Soil Water BalanceやPolygon Trackingなどを利用して、特定の領域における水量や水収支を評価することもできます。
大規模なモデルにも利用できますか?
A:HydroGeoSphereは、フィールドスケールから大規模な流域までさまざまな規模の水文モデルに利用できます。
数値計算ではSerialおよびParallel Simulation、Adaptive Timesteppingなどを利用できます。
モデル作成にはどのようなファイルを使用しますか?
A:モデル設定の中心となるのは.grokファイルです。
.grokファイルには、グリッド生成、シミュレーション設定、材料特性、初期条件、境界条件、数値設定、出力設定などを記述します。
HydroGeoSphere(HGS)のライセンスについて
当社では、Aquanty HydroGeoSphere(HGS)のライセンス販売を行っています。
HydroGeoSphereの導入をご検討中の方、ライセンスやお見積もりについて確認したい方は、お気軽にお問い合わせください。
メーカーの製品サイト
https://www.aquanty.com/
【言語】英語


