概要
Juan Melara の製品群は、DaVinci Resolve 向けの PowerGrade と LUT で構成されており、プロのポストプロダクション現場で頻出する課題──複数のカメラから撮影された素材を、Alexa を基準に揃えつつ、柔軟でフィルミックなルックを維持すること──を解決するために設計されています。開発者本人もコマーシャルを中心に活動する現役カラーリスト/撮影監督であり、実際のキャンペーンや長尺案件で使われているツールです。
ラインアップの中心にあるのが Camera-to-Alexa PowerGrades & LUTs です。これらは Sony A7SIII / A7IV / FX3 / FX6、Fujifilm X-H2S、Canon C70 / C300 Mark III、iPhone 16 Pro / 15 Pro、Blackmagic BMPCC 4K / 6K / 6K Pro、URSA Mini Pro 4.6K G2、RED Komodo / Komodo-X / V-Raptor といったカメラを Alexa LogC カラースペースに正確に近づけるための変換を提供し、FX9 など一部機種についても、デフォルトより Alexa に近い色再現を得られるよう改善します。
各製品は概ね次の構成で提供されます。
- NLE やオンセット用途に向いた LogC カメラマッチ LUT
- DaVinci Resolve 内で最大限のコントロールを得られる PowerGrade
- 両方をまとめたバンドルに加え、オンセット/Rec.709 モニタリング用 LUT
ルック生成のためのポートフォリオとしては、次のような製品があります。
- FilmUnlimited – Flexible Film Emulation
Kodak 5207 250D と Kodak 5219 500T をエミュレーションした PowerGrade コレクション。DaVinci YRGB と Resolve Color Management(DaVinci Wide Gamut / Intermediate)双方のワークフロー向けに再構築されており、Resolve 17.2 以降(18 / 19 / 20 含む)で動作します。 - Print Film Emulation(PFE)PowerGrades
Kodak 2383 / 2393、および Fujifilm 3510 / 3513DI / 3521XD のプリントフィルムをエミュレートした PowerGrade 群。DaVinci YRGB 版と RCM 版に加え、Kodak 2393 については ACES 版の PowerGrade も用意されています。
他の LUT パックと比べた際の大きな差別化要素は、ほぼすべてのルックが「完全に編集可能な PowerGrade」で提供される点です。ノード構造はすべて可視化されており、カーブやカラー調整は自由に編集できるうえ、HDR やモダンなカラーマネージメントに対応できるよう、極力クリッピングやデータの圧縮を避ける設計になっています。
これらの製品は ARRI LogC と DaVinci Resolve Color Management、ACES といった業界標準のカラーマネージメントに沿っており、LUT と PowerGrade ファイルという小さな構成要素としてバージョン管理・配布が容易です。複数のカメラシステムやインハウス制作チーム、ポスト施設を束ねる組織にとって、Resolve 内で完結する 再現性の高いカラー・パイプライン を構築することができます。
製品概要と価値提案
現代のコンテンツ制作現場では、1 種類のカメラだけを使うケースはほとんどありません。企業スタジオ、放送局、広告代理店、配信サービスはいずれも、ミラーレス機、シネマカメラ、さらにはスマートフォンまで、さまざまなデバイスを組み合わせています。その一方で、マーケティングやクリエイティブの担当者は、キャンペーンやプラットフォームをまたいで統一感のある「シネマティックでフィルムライクな画」を求めています。
Juan Melara の Camera-to-Alexa およびフィルムエミュレーション製品は、まさにその要求に応えるために設計されています。
- 多様なカメラシステムを、事実上の業界標準と言える ARRI Alexa を基準とした Alexa 中心のカラー・パイプライン に正規化できること
- LUT だけでなく、DaVinci Resolve の PowerGrade として提供される 柔軟で完全に編集可能なフィルムルック
- DaVinci Resolve YRGB と Resolve Color Management(RCM / DaVinci Wide Gamut)に対応し、加えて Kodak 2393 ACES PowerGrade など、一部製品で ACES ワークフローもカバーしていること
これにより、企業の IT・エンジニアリングチームにとっては、社内外のベンダーに対して仕様を明文化し、中央集約的に配布・標準化できる ソフトウェアコンポーネント として扱うことができます。意思決定者にとっては、特定プラグインに依存することなく、画質とブランド一貫性を守る手段となります。
複数の製品ページで用いられている「No Snake Oil(まやかし無し)」という表現が象徴するように、ノード構造をオープンにし、計測に基づくカメラプロファイリングを行い、ハイエンドポストの実務に沿ったワークフローを重視している点も特徴です。
製品紹介
3.1 Camera-to-Alexa PowerGrades & LUTs スイート
1.1 コンセプト
Camera-to-Alexa 製品は、カスタム 3×3 マトリクスとカラーサイエンス を用いて、対応カメラのログフッテージを ARRI LogC に変換し、実際の Alexa に近いトーンとカラーを再現することを目指しています。
なぜ Alexa なのか?
- Alexa シリーズは、ハイエンドの映画・ドラマ制作を中心に広く使われており、デジタル映像の画質と色再現のリファレンスとして見なされています。
- 多くの商用ショールックやカラーパイプラインが、Alexa LogC をスタート地点に想定しています。
異なるカメラの素材を同じ LogC ワーキングスペース に正規化することで、次のようなメリットがあります。
- 既存のショー LUT やルックを、複数カメラにまたがって再利用できる
- マルチカメラ撮影における色合わせが簡素化される
- Alexa ベースの素材を前提とする外部フィニッシングや VFX ベンダーへの受け渡しがスムーズになる
各カメラ製品には、おおよそ次のような要素が含まれます。
- NLE やオンセットモニタリング、クイックな仕上げ用の LogC カメラマッチ LUT
- カメラマッチと Alexa→Rec.709 変換を結合し、高精度 x65 サンプルで提供される ポストプロダクション向け Rec.709 LUT
- カメラ機内やフィールドモニター用の x33 精度 オンセット LUT
- ノード構造が完全に編集可能な Resolve PowerGrade(YRGB 版と RCM 版)
この構成は、以下の各ラインナップに共通しています。
1.2 Sony A7SIII / A7IV / FX3 / FX6 / FX9 – Sony2Alexa
- 製品名例:Sony A7SIII / A7IV / FX3 / FX6 to Alexa PowerGrade and LUT
- 目的:Sony の Alpha/FX シリーズを Alexa に合わせ込み、自然な肌色とバランスの良いカラーを再現すること。FX9 についても、完全一致とまでは明言されていないものの、標準のカラーサイエンスより Alexa に近づけることを目指しています。
- 主な内容:
- Sony2Alexa LUT
- Sony2Alexa PowerGrade
- 上記をまとめたバンドル
典型的な運用例:
- 監督やクライアントの確認用として、カメラやモニターに Sony2Alexa LUT を読み込み、現場で Alexa ルックに近いプレビューを表示
- 最終グレーディングでは Resolve 内で PowerGrade を適用し、必要に応じてノード単位で微調整
- 出力された Alexa LogC をベースに、プリントフィルムエミュレーションなどのショールックを積み重ねる
「Sony → Alexa LogC 正規化 → ショールック → トリム」という標準ワークフローをドキュメントとして定義し、社内外のチームに徹底させることができます。
1.3 Fujifilm X-H2S – X-H2SFuji2Alexa
- 製品名例:F-Log2C / RCM Update – Fujifilm X-H2S to Alexa PowerGrade and LUT
- 目的:Fujifilm X-H2S の F-Log2 / F-Log2C フッテージを Alexa LogC に変換すること。
- 主な内容:
- X-H2SFuji2Alexa LogC カメラマッチ LUT
- ARRI LogC2Video 出力 LUT(Standard / Standard V2 / Standard V3 / WDR V2)
- x65 精度のポストプロダクション向け Rec.709 LUT
- x33 精度のオンセット/インカメラ LUT
- F-Log2 / F-Log2C 用 PowerGrade と、DaVinci Wide Gamut / Intermediate 向けの RCM PowerGrade(F-Log2C の一部 PowerGrade には Resolve 19 が必要)
従来の YRGB プロジェクトと、HDR/広色域配信を意識した RCM プロジェクトの両方に対応しているため、社内標準として RCM を採用している施設にとって扱いやすい構成です。
1.4 Canon C70 / C300 Mark III – Canon2Alexa
- 製品名例:RCM UPDATE – Canon C70 and C300 Mark III to Alexa PowerGrade and LUT
- 目的:Canon のシネマライン(C70、C300 Mark III)を Alexa にマッチさせ、LogC ベースの出力や Rec.709 出力を提供すること。
- 主な内容:
- Canon 向け LogC カメラマッチ LUT
- ARRI LogC2Video 出力 LUT(Standard / Standard V2 / WDR V2)
- グレーディング向けの x65 Rec.709 LUT
- モニタリング向け x33 LUT
- DaVinci Wide Gamut ワークフロー用の Canon2Alexa PowerGrade と Canon2Alexa RCM PowerGrade
1.5 Blackmagic Pocket 4K & 6K – P4K2Alexa / P6K2Alexa
- 製品名例:
- RCM UPDATE – BMPCC 4K to Alexa PowerGrade and LUT(P4K2Alexa)
- RCM UPDATE – BMPCC 6K to Alexa PowerGrade and LUT(P6K2Alexa)
主な特徴:
- センサーのプロファイリングに基づく カスタム 3×3 マトリクス により、Pocket カメラのセンサー特性を Alexa に近づける設計。ハイエンドポストで用いられる手法に近いアプローチが取られています。
- Blackmagic Gen5 に対応し、PowerGrade の適用には Resolve 17.2 以降が推奨され、カメラ側の LUT 適用には対応ファームウェアが必要です。
- フィルムエミュレーションの研究から得られた知見をもとに、よりフィルミックな彩度とカラー挙動を持つ LogC→Rec.709 LUT を同梱。
製品ページでは、様々なライティング条件における Alexa と Pocket カメラの比較スチルが掲載されており、マッチの再現性を確認できます。
1.6 URSA Mini Pro 4.6K G2 – G2URSA2Alexa
- 製品名例:GEN5 & RCM UPDATE – URSA Mini Pro G2 to Alexa PowerGrade and LUT
- P4K/P6K と同様のマトリクスベースのプロファイル手法を用いつつ、異なる照明条件への最適化が追加されています。
- LUT、PowerGrade、バンドル、および RCM 版が用意され、URSA2Alexa 出力と実際の Alexa フッテージを比較したビジュアルサンプルも提供されています。
1.7 RED Komodo / Komodo-X – Komodo2Alexa / Komodo-X2Alexa
- 製品名例:
- RCM UPDATE – RED Komodo to Alexa PowerGrade and LUT
- NEW – Komodo-X to Alexa PowerGrade and LUTs
両製品とも構成は類似しており、
- カメラマッチ用 LogC LUT
- Alexa LogC2Video LUT
- ポストプロダクション用/オンセット用の Rec.709 LUT
- YRGB および RCM PowerGrade
といった要素で構成されています。また、他の製品と同様に「No Snake Oil」といったコンセプトが明示され、変換処理を不透明な LUT のみに隠さないポリシーが示されています。
1.8 RED V-Raptor – V-Raptor2Alexa
- 製品名例:NEW Red V-Raptor to Alexa PowerGrade and LUTs
- V-Raptor を Alexa にマッチさせるための、比較的早期リリース版として提供されており、今後の検証・アップデートが予告されています。アップデートは購入者に無償提供される旨の記載があります。
- LUT 版と PowerGrade 版、バンドルに加え、LogC2Video LUT や「No Snake Oil」思想に関する説明など、Komodo-X2Alexa と近い構成です。
1.9 Fujifilm / Sony / Canon → Alexa に共通する設計
Fujifilm、Sony、Canon など各社カメラ向けの Camera-to-Alexa 製品には、共通した設計思想があります。
- カメラマッチ LUT と出力 LUT を明確に分離
カメラマッチ層とルック/出力層を分けることで、ユーザーが独自のショー LUT や PowerGrade を柔軟に組み合わせられるようになっています。 - オンセット版とポスト版の両方を提供
カメラ内や現場モニター、オフライン編集、最終グレーディングまで、一貫した見え方を維持しやすい構成です。 - YRGB・RCM との親和性
各 PowerGrade は、従来の YRGB プロジェクトだけでなく、DaVinci Wide Gamut を用いた RCM プロジェクトでも自然に扱えるようノード構造が設計されています。
これは、カメラとルックが一体化された単一の LUT だけを提供するパックとは異なり、パイプライン全体での再利用性と拡張性を重視したアプローチと言えます。
1.10 iPhone 16 Pro / 15 Pro – iPhone16Pro2Alexa
- 製品名例:NEW – iPhone16Pro to Alexa PowerGrade and LUTs
- 目的:Blackmagic Camera などのアプリで撮影された Apple Log のフッテージを、シネマカメラと同じ Alexa ベースのパイプラインに組み込むこと。
- 主な利用方法:
- Apple Log → Alexa LogC への変換を、カメラマッチ LUT または PowerGrade で実行
- その上に Alexa 向けショー LUT や FilmUnlimited、PFE PowerGrades を重ね、スマートフォン素材とシネマカメラ素材を統一したルックで運用
- LUT 版/PowerGrade 版/バンドルが提供され、Apple Log で撮影されたサンプルイメージも公開
社内コミュニケーションや SNS 用途としてハイエンドスマートフォンの動画を多用する組織にとって、スマホ素材を既存の Alexa ベースのショールックに自然に組み込める点が強みです。
3.2 FilmUnlimited – Flexible Film Emulation
2.1 概要
FilmUnlimited は、Kodak 5207 250D と Kodak 5219 500T のネガフィルムをエミュレートする Resolve PowerGrade セットです。
主なポイント:
- 実際にこれらのフィルムストックを撮影し、その特性を計測したうえで PowerGrade として再構築していること
- 当初は DaVinci YRGB 用として設計され、その後のアップデートで Resolve Color Management(DaVinci Wide Gamut / Intermediate) 向けに再構築されたこと
- 動作には Resolve 17.2 以降が必要で、18 / 19 / 20 にも対応していること
FilmUnlimited の構成は次の通りです。
- PowerGrade のみ
- インカメラ LUT のみ
- PowerGrade + インカメラ LUT バンドル
インカメラ LUT も用意されていますが、作者は一貫して「本来の真価は PowerGrade としての使用時に発揮される」ことを強調しており、ノード単位での編集や調整が可能である点が最大の魅力です。
2.2 技術的特徴
製品およびブログの説明によると、FilmUnlimited の PowerGrade は次のような構造を持ちます。
- まず ネガフィルムのレスポンス をエミュレートし、その後多くの場合 Kodak 2383 由来のプリントフィルムカーブを用いて最終的なコントラストを形成
- ノードグラフはすべて可視化されており、ユーザーは以下のような構成要素を個別に調整可能
- ネガ側の色再現(カラーメトリ)
- プリントフィルムのコントラストカーブ
- シャドウ/ハイライトの色味シフト
- グレイン、ハレーション、ゲートウィーブのシミュレーション(使用されている場合)
また、可能な限りクリッピングやデータのクランプを避ける構造になっており、後段のノードでハイライトやシャドウのディテールを復元しやすいよう配慮されています。オンラインコミュニティでは、ブラックボックス的なフィルムエミュレーションプラグインや LUT パックと比較して、「構造が見える」「調整しやすい」といった声が多く見られます。
3.3 Print Film Emulation(PFE)PowerGrades
3.1 DaVinci YRGB Print Film Emulation PowerGrades
- 製品名例:DaVinci YRGB Print Film Emulation PowerGrades
- 対応プリントストック:
- Kodak 2383
- Kodak 2393
- Fujifilm 3513DI
- Fujifilm 3521XD
- Fujifilm 3510
主な設計:
- 各プリントフィルムストックは、それぞれ個別の YRGB PowerGrade として再構築されています。
- 単品購入に加えて、複数ストックをまとめた All PFE YRGB PowerGrades Bundle といったバンドル構成も用意されています。
- さらに、FilmUnlimited の Kodak 250D ネガエミュレーションと各プリントストックを組み合わせたバンドル(例:Kodak 250D + Kodak 2383)も提供されています。
これにより、「ネガ+プリント」という現像所に近い発想で、ネガ側のキャラクターとプリント側のキャラクターを自由に組み合わせてショールックを構築できます。
3.2 Resolve Color Managed / DaVinci Wide Gamut PFE
- 製品名例:RCM / DaVinci Wide Gamut Print Film Emulation PowerGrades
Resolve Color Managed プロジェクト向けに、DaVinci Wide Gamut スペースで動作するよう最適化された PowerGrade 群です。
標準の RCM 設定だけでなく、ノードベースの RCM や SDR/HDR グレーディングにも対応できる構造になっており、同じプリントストックが RCM 版としても利用できます。複数の PowerGrade をまとめたバンドルも存在します。
3.3 Kodak 2383 PowerGrade
- 製品名例:Kodak 2383 PowerGrade
- Kodak 2383 D65 / D55 PFE LUT を Resolve の PowerGrade として再構築したもので、LUT で行っていた処理をノードベースで分解して理解できるようにしたものです。
- Resolve 14 / 15 / 16 向けのバージョンが含まれており、ユーザーがノード構造を参考にしながら、自分なりのプリントルックを構築する教材的な位置付けも兼ねています。
- 製品紹介では、より精度と柔軟性が高い YRGB/RCM PFE PowerGrades への導線も提示されています。
3.4 UPDATED Kodak 2393 & Film Matrix PowerGrade(YRGB)
- 製品名例:UPDATED Kodak 2393 & Film Matrix PowerGrade
- Kodak 2393 D65 / D55 のプリントエミュレーションを YRGB PowerGrade として再構築し、FilmUnlimited の Kodak 250D ネガエミュレーションを組み込んだアップデート版です。
- 作者によると、
- 2393 は 2383 よりクリーンで、よりリッチな色と深い黒を持つ
- PowerGrade は理解しやすく編集しやすい構造でありながら、過去バージョンより高精度のエミュレーションを目指している
- 画像データをクリップしない設計により、後段ノードでハイライト/シャドウを復元しやすい
3.5 Kodak 2393 ACES PowerGrade
- 製品名例:Kodak 2393 ACES PowerGrade
- ACEScc / ACEScct グレーディング向けに設計された、ACES ネイティブなプリントフィルムエミュレーション PowerGrade です。
- シーンリファードの ACES ワークフローの中で Kodak 2393 のルックを再現するために、
- ホワイトポイントシミュレーションのノード
- ACES の色域を 2393 に近いカラーメトリにマッピングするためのノード
- 2393 のコントラスト挙動を近似しつつ、ACES のダイナミックレンジとデータ整合性を維持するためのカーブ
- などを組み合わせたノード構成を採用しています。
- サンプルとして Pocket 6K の BRAW フッテージとグレード例も付属し、検証やトレーニングに活用できます。
ACES をエンド・ツー・エンドのカラーマネージメント標準として採用している組織にとっては、ACES パイプライン内部で利用可能な「プリントライクな基準ルック」として位置付けることができます。
導入によるメリット
4.1 Alexa を中心とした標準カラー・パイプライン
対応カメラすべてに Camera-to-Alexa 変換を適用することで、組織として 一つの明確に定義されたカラー・パイプライン を構築できます。
- Sony・Canon・Fujifilm・RED・Blackmagic・iPhone など、各種カメラのオリジナル素材を取り込み
- 該当カメラ向けの Camera-to-Alexa PowerGrade もしくは LUT を適用し、Alexa LogC に正規化
- FilmUnlimited や PFE PowerGrades(YRGB / RCM、および対応する場合は ACES)をベースに ショールック を適用
- Resolve のカラーマネージメントや ACES を用いて、最終的な SDR・HDR・Rec.709・Rec.2020 などの納品形式を生成
これにより、技術的な監修・トラブルシューティング・ベンダー管理が、プロジェクト単位の場当たり的なパイプラインよりも格段に容易になります。
例えば、次のような社内ルールを策定できます。
- 「すべての Log フッテージは、クリエイティブなグレーディングに入る前に、承認済みの Camera-to-Alexa 変換で Alexa LogC に正規化する」
- 「ショー LUT vX.YZ は、Camera-to-Alexa 正規化後の Alexa LogC にのみ適用する」
このようなルールは、IT 部門やシステムエンジニア、外部ベンダーにとっても監査・検証しやすいものになります。
4.2 透明性の高い編集可能な PowerGrade
市販のフィルムエミュレーションや「カメラルック」ソリューションの多くは、ブラックボックスの LUT や独自プラグイン として提供されます。それに対し、Juan Melara の製品は次の点を重視しています。
- ノード構造がすべて開示された PowerGrade
- 特定の処理(例えばプリントカーブを Color Space Transform に置き換えるなど)を、ユーザーがオン/オフしたり差し替えたりできる構造
- 「エミュレーションのあらゆる側面を編集可能にする」という設計思想
これには、企業やポストプロダクション施設にとって次のような利点があります。
- リスク低減:特定プラグインが廃止されたりベンダーが撤退しても、Resolve のノード構造として残る限りワークフローが維持できる
- 監査可能性:エンジニアやリードカラーリストがノード構成をレビューし、社内 QC 基準に沿っているか確認できる
- カスタマイズ性:たとえば 2393 をベースにニュートラル寄りのグリーン、ややウォームなグリーンなど、バリエーションを派生 PowerGrade として管理し、バージョン管理された .drx ファイルとして運用できる
4.3 データを尊重したカラーサイエンス
複数の製品説明で、PowerGrade が 画像データのクリッピングやクランプを避けるよう設計されている ことが明記されています。これは単なる見た目のルックだけでなく、将来の運用を見据えた設計と言えます。
メリットの例:
- HDR リマスターや将来フォーマットへの再グレーディング時に、ハイライトの復元余地が残る
- 極端なルックやスタイライズを行った際にも、破綻しにくい
- グレーディング前後のどのフェーズで VFX を挿入する場合でも、コンポジットに適したレンジを確保しやすい
IT やパイプライン設計者の観点からは、広ダイナミックレンジと広色域をパイプライン全体で保持することを目指す ACES など、現代的なシーンリファードのアプローチと相性が良い設計です。
4.4 他ソリューションとの差別化
Kodak や Fujifilm のプリントストックをエミュレートする LUT パック自体は市場に多数存在しますが、Juan Melara の製品は次の点で差別化されています。
- 手法:計測に基づくカメラプロファイリング、3×3 マトリクス、RCM/ACES を意識した PowerGrade 設計など、単純な 3D LUT 変換にとどまらないアプローチ
- 編集可能性:内部構造が見えない LUT とは異なり、ノードベースでの構造が公開されているため、ユーザーが自分のワークフローに合わせて調整・拡張できる
- カバー範囲:Sony・Canon・Fujifilm・RED・Blackmagic・iPhone など、幅広いカメラプラットフォームを「Alexa ベースのリファレンス」と共通のフィルムエミュレーションで束ねられる
販売パートナー向けの訴求ポイントとしては、「単一の静的な LUT バンドル」や「特定ホストにロックインされたプラグイン」と比較し、カラーサイエンスやワークフローの透明性・標準化のしやすさを前面に出すと効果的です(他社名は出さなくても、一般的な特徴の対比だけで十分です)。
ユースケース
5.1 企業内制作チーム(エンタープライズ/ブランドオーナー)
想定シナリオ:
グローバルブランドが自社スタジオを運営し、Sony FX3、Canon C70、RED Komodo、iPhone 16 Pro などを使ってキャンペーン動画、SNS 用動画、社内向け動画、イベント映像などを制作している。
課題:
- 拠点やクルーが異なっても、常に同じ「ブランドのヒーロールック」を維持したい
- 一部案件は外部代理店に委託しつつも、最終的な色やブランドの統一感は社内でコントロールしたい
- 放送向け SDR と配信向け HDR を並行して扱う必要がある
これらの製品を使った実装例:
- Sony2Alexa、Canon2Alexa、Komodo2Alexa、iPhone16Pro2Alexa などの Camera-to-Alexa 製品を使い、社内標準のリファレンススペースとして Alexa LogC を採用
- FilmUnlimited と PFE PowerGrades を組み合わせて、RCM ベースの SDR/HDR ワークフロー上で ブランド標準ショールック を定義
- 以下を配布:
- 撮影部・DIT 向けに、オンセット LUT を配布し、現場のモニタリングを最終ルックに近づける
- 社内カラーリストや、承認済みの外部ポストベンダーには PowerGrade とショー LUT を配布
これにより、IT 部門は「Alexa 正規化 v2.1 + ショー LUT v3.0」といったバージョン付きのバンドルを管理し、すべてのマスターデリバリーでの使用を義務づけることができます。
5.2 ポストプロダクション施設/カラー部門
想定シナリオ:
広告系のフィニッシングを担うポストプロダクションが、様々なカメラで撮影された案件を扱い、クライアントから「フィルムっぽいルック」の要望を頻繁に受けている。
このような施設では、次のような運用が可能です。
- FilmUnlimited と PFE バンドルをベースに、「Kodak 250D + 2393」「Kodak 5207 + Fujifilm 3513DI」など、ハウスルックのメニュー を構築しておき、クライアントに選択肢として提示
- クライアントが持ち込む素材がスマホやミラーレスであっても、対応する Camera-to-Alexa 製品を用いて迅速に Alexa LogC へ正規化し、既存のショールックに接続
- ジュニアグレーダーには標準 PowerGrade のテンプレートを使わせつつ、シニアカラーリストが案件ごとにノードを微調整して仕上げる
長尺や配信向け案件で既に ACES を採用している施設の場合、Kodak 2393 ACES PowerGrade を使うことで、ACES パイプラインの中にプリントライクな基準ルックを組み込むことができます。
5.3 配信サービス/放送局
想定シナリオ:
- マルチカメラのライブイベント
- シネマカメラで撮影されるオリジナル作品
- 軽量なカメラやスマートフォンで収録されるニュース/情報番組
といった多様なコンテンツを取り扱う配信サービスや放送局。
メリット例:
- 社内で撮影されたすべての素材を、Alexa に揃えたリファレンススペースに正規化し、外部ポストハウスへの持ち込みもスムーズにする
- 中継車やスタジオモニターで共通のオンセット LUT を使用し、撮影監督・ディレクター・リモート参加者が、最終ルックに近い映像を共有できる環境を整える
- Camera-to-Alexa とフィルムエミュレーション PowerGrade を RCM/ACES と組み合わせ、シリーズ作品やレギュラー番組のルックを一貫して運用
5.4 教育機関・トレーニングプログラム
映画学校やトレーニング機関では、次のような使い方が可能です。
- FilmUnlimited や PFE PowerGrades を教材として、フィルムルック構築の仕組み を教える
学生はノードグラフを開き、ネガ、プリントカーブ、色のチューニング、グレインなどがどのように組み合わさっているかを学ぶことができます。 - 低価格なカメラを Alexa へマッチさせることで、カラーマネージメントの概念を実演
同じシーンを様々なカメラで撮影し、Camera-to-Alexa PowerGrade を適用した状態と、未調整の状態を比較する授業などに適しています。
教材としてのファイルサイズも比較的小さく、PowerGrade や LUT を共有ストレージで配布すれば、コース資料と一緒にバージョン管理しやすい点も利点です。
FAQ
Q1. どのホストソフトウェアが必要ですか?
ほとんどの製品は、DaVinci Resolve、特にカラータブ(YRGB および RCM モード)での使用を前提に設計されています。
- FilmUnlimited PowerGrade は Resolve 17.2 以降(18 / 19 / 20 含む)が必要です。
- X-H2SFuji2Alexa の F-Log2C 用 PowerGrade など、一部には Resolve 19 が必要なものもあります。
- オンセット/ポストプロダクション用の LUT は、3D LUT を扱える NLE、カメラ、モニターなど他のホストでも使用できますが、ノード構造を編集できる高度な機能は Resolve 専用です。
Q2. これはプラグインですか?
いいえ。主な構成要素は以下の 2 種類です。
- DaVinci Resolve 用の PowerGrade
- カメラ・モニター・NLE で利用できる 3D LUT(.cube)
追加のバイナリプラグインやライセンスマネージャーは不要なため、IT 部門にとって導入・配布が容易です。
Q3. どのカメラに対応していますか?
最新の製品一覧では、次のようなカメラに対応した Camera-to-Alexa 変換が用意されています。
- Sony A7SIII / A7IV / FX3 / FX6(および FX9 への対応)
- Fujifilm X-H2S(F-Log2 / F-Log2C)
- Canon C70 / C300 Mark III
- Blackmagic BMPCC 4K、BMPCC 6K / 6K Pro
- Blackmagic URSA Mini Pro 4.6K G2
- RED Komodo / Komodo-X
- RED V-Raptor
- iPhone 16 Pro / 16 Pro Max、15 Pro / 15 Pro Max(Apple Log、Blackmagic Camera 等)
新たな対応カメラやアップデートが追加される場合があるため、実運用では必ず最新の製品情報を確認ください。
Q4. LUT 版と PowerGrade 版の違いは何ですか?
LUT 版:
- NLE やオンセットでの即時適用に最適
- カメラマッチ用 LogC LUT と、複数カーブを備えた ARRI LogC2Video Rec.709 LUT を同梱
- 高精度なポストプロダクション用 LUT と、軽量なオンセット用 LUT が含まれる
PowerGrade 版:
- Resolve ユーザー向けに設計
- ノード構造が完全に編集可能で、カメラマッチとフィルムルックをノードベースで実装
- カラーマネージメントされたワークフロー向けに、RCM や ACES(対応製品のみ)を前提としたバリエーションが用意されている場合もある
主に Resolve を使うチームであれば、PowerGrade もしくはバンドルを推奨できます。
Q5. FilmUnlimited と Print Film Emulation PowerGrades の関係は?
FilmUnlimited は、Kodak 5207 250D と 5219 500T といった ネガフィルムのエミュレーション にフォーカスしており、多様なフィルムルックを構築するための柔軟性を重視しています。
PFE PowerGrades は、Kodak 2383 / 2393 や Fujifilm 3510 / 3513DI / 3521XD など、プリントフィルムのエミュレーション を提供します。
一般的なワークフローとしては、
- Camera-to-Alexa PowerGrade でカメラを Alexa LogC に正規化
- FilmUnlimited のネガエミュレーションを適用
- プロジェクトに応じて YRGB / RCM / ACES(対応製品)からプリントフィルムエミュレーションを選択
という流れで使用します。
Q6. ACES ワークフローで使えますか?
はい、次のような形で利用できます。
- Kodak 2393 ACES PowerGrade は、ACEScc / ACEScct 向けに設計されています。
- 多くの Camera-to-Alexa 製品は、ACES トランスフォームの前後いずれかに配置することで運用できます。具体的な配置は、各施設の ACES 設定や運用ポリシーに合わせて検証する必要があります。
Q7. ダイナミックレンジはクリップされませんか?
Kodak 2393 を含む複数の PowerGrade では、画像データを極力クリップ/クランプしないようにする という設計方針が明示されています。
ただし、最終的なダイナミックレンジの扱いは、プロジェクト全体の設計(ACES/RCM の設定や ODT の選択など)にも依存するため、実際の運用では自社のパイプラインと組み合わせて検証・QC を行うことが推奨されます。
Q8. アップデートはどのように提供されますか?
多くの製品は、カラーサイエンスの追加、Gen5 対応、RCM/Log バリエーションの追加など、無償アップデート を受け取れるようになっており、各製品ページにアップデート履歴が記載されています。
メーカー製品サイト(英語): https://juanmelara.com.au/


