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Seasearcherで読み解くホルムズ海峡の船舶動向と世界の海運リスク


はじめに:通航船舶数だけでは見えない海運リスク

ホルムズ海峡や紅海など、 世界の海上輸送を支える 主要航路では、 地政学的な緊張、 船舶への攻撃、 航路変更などによって、 船舶の流れが大きく変化することがあります。

こうした状況を把握する際、 「何隻の船が通過したか」 という数字だけを見ても、 海運リスクの実態を 正確に判断できるとは限りません。

全体の通航量が増加していても、 特定の船種だけが減少していたり、 通常とは異なる航路を 選択する船舶が増えていたり、 一度海域へ入った船舶が 長期間出航できていなかったりする ケースがあります。

また、 AIS上で通常どおり 追跡できる船舶だけではなく、 信号が確認しにくい航行や 別ルートを利用する船舶も 考慮する必要があります。

Lloyd’s List Intelligenceによる ホルムズ海峡危機の分析では、 ホルムズ海峡だけを見るのではなく、 紅海、 スエズ運河、 マラッカ海峡、 コンテナ輸送、 原油輸送まで視野を広げ、 船舶データから 海上輸送の変化を読み解いています。

今回は、 その分析から見えてくる 海運リスクのポイントと、 Lloyd’s List Intelligenceの データをどのように 実務へ活用できるのかを 分かりやすく紹介します。


複数の主要海域で同時に高まる船舶運航リスク

Lloyd’s List Intelligenceの分析では、 海運業界が直面している状況を 「Shipping's triple threat」 と表現しています。

主に取り上げられているのは、 次の3つの海域です。

  • ホルムズ海峡
  • 紅海
  • 黒海

ホルムズ海峡では、 商船への攻撃や 船舶への警告が確認されるなど、 航行の安全性に影響する 事象が発生しています。

紅海でも、 船舶への攻撃リスクが 航路選択や保険、 船会社の運航判断に 影響を与えています。

さらに黒海でも、 商船や港湾への攻撃によって、 船主が特定地域への配船を 控える動きが見られています。

つまり、 一つの危険海域を 迂回すれば問題が 解決するわけではありません。

複数の海域で リスクが同時に存在する場合、 船会社は安全性だけでなく、 航行距離、 保険、 港湾利用、 バンカリング、 輸送時間などを 総合的に判断する必要があります。

そのため、 海上輸送リスクを把握するには、 個別の事故やニュースだけではなく、 実際に船舶の流れが どのように変化しているのか を確認することが重要です。


ホルムズ海峡―通航量の増加を「正常化」と判断できない理由

今回の分析で 特に興味深いのが、 ホルムズ海峡における 船舶通航数の変化です。

比較対象となった期間では、 ホルムズ海峡の 総通航数が 87%増加し、 インバウンド、 アウトバウンドの双方で 船舶数が増えています。

数字だけを見ると、 船舶交通が急速に 回復しているように 見えるかもしれません。

しかし、 Lloyd’s List Intelligenceでは、 この増加を 船主や運航会社の 信頼回復を示す証拠として 解釈すべきではない としています。

増加率は大きくても、 絶対的な通航数は 依然として限定的であり、 従来の船舶交通が 完全に戻ったことを 意味するものではないためです。

船種によっても状況は異なる

ホルムズ海峡では、 ガス船やコンテナ船の 追跡可能な通航が 再び確認される一方、 原油輸送は 過去の通常水準を 下回る状況が示されています。

つまり、 総通航数だけではなく、 どの船種が戻っているのか を確認することが重要です。

例えば、 コンテナ船の動きが回復していても、 タンカーの通航が 低い水準にとどまっていれば、 エネルギー輸送に関する リスクは継続している可能性があります。

通常ルートを通らない船舶も存在

さらに、 今回の分析では、 ホルムズ海峡周辺で 通常とは異なるルートを 利用する船舶も 確認されています。

一部の船舶は、 オマーン沿岸を通る 南側ルートを利用しています。

また、 AISなどによる 通常の追跡だけでは 全体を把握しにくい Dark Activityも 存在します。

そのため、 海峡の通常航路上で AISによって確認できた船舶だけを 集計しても、 海域全体の船舶交通を 正確に把握できない場合があります。

「何隻通ったか」だけではなく、

  • 船種
  • 航行方向
  • 利用ルート
  • タンカーの動向
  • Dark Activity

を組み合わせて 確認することで、 より実態に近い 海上輸送の変化を把握できます。


海峡通航数だけでなく「湾内に残る船舶」にも注目

ホルムズ海峡の状況を 評価する際に重要なのは、 海峡を通過した船舶だけではありません。

一度ペルシャ湾へ入った船舶が、 その後、 無事に湾外へ出られているかも 重要な指標となります。

今回の分析では、 一時的に緊張が緩和した局面で、 湾内に滞留していた メインストリームのタンカーが 160隻超から29隻まで減少 したケースが示されています。

これは、 状況の緩和によって 多くの船舶が 湾外へ移動できたことを 示しています。

一方で、 長期間湾内に残っている船舶や、 比較的状況が落ち着いていた局面に 湾内へ入ったにもかかわらず、 その後も出航していない船舶が 多数確認されています。

このことからも、 一時的に海峡の通航数が増えたからといって、 海上交通全体が 正常化したとは判断できません。

「何隻が入ったか」 だけではなく、 「何隻が出られていないか」 を確認することが、 海域のリスクを評価するうえで 重要になります。


紅海―全体の通航量よりタンカーへの影響が大きい

紅海でも、 総通航数だけを見ていると 実態を読み違える可能性があります。

バブ・エル・マンデブ海峡では、 比較対象となった期間で 船舶通航数が 24%減少しています。

ただし、 Lloyd’s List Intelligenceでは、 この総通航数自体は 過去の変動範囲から 大きく外れたものではないと 分析しています。

一方で、 船種別に見ると 状況は大きく異なります。

特に影響が集中しているのが、 タンカーです。

分析では、 非シャドーフリートの タンカー通航が それ以前の水準から 大きく減少しています。

つまり、 全船種を合計した数字では 変化が限定的に見えても、 エネルギー輸送だけを見ると より大きな影響が 発生している場合があります。

バブ・エル・マンデブ海峡とスエズ運河は同じ動きをしていない

さらに興味深いのは、 バブ・エル・マンデブ海峡で 通航数が減少する一方、 スエズ運河では 通航数がほぼ横ばいとなっている ケースが示されていることです。

どちらも 紅海・スエズルートを 構成する重要地点ですが、 同じタイミングで 同じ変化が発生するとは限りません。

そのため、 「紅海の交通量」 という一つの数字だけではなく、 チョークポイントごとに 通航量と船種を比較する ことが必要です。


コンテナ輸送では航路と港湾ネットワークそのものが変化

ホルムズ海峡と紅海を巡る混乱は、 タンカーだけでなく、 コンテナ輸送にも 影響を与えています。

今回の分析では、 ホルムズ海峡を通過して 湾岸港へ寄港する 東西基幹航路の ディープシーサービスが 見られない状況が示されています。

その一方で、 湾内では 約20のフィーダーサービス が運航しています。

つまり、 基幹航路の大型船が 従来どおり湾内へ入るのではなく、 ホルムズ海峡の外側にある港と 湾内のフィーダーサービスを 組み合わせるなど、 コンテナ輸送ネットワークそのものに 変化が生じています。

安全性と保険が航路選択に影響

紅海についても、 船舶への攻撃リスクだけでなく、 保険上の懸念が 船会社の航路選択に 影響しています。

一部の大手船会社では スエズ運河を利用する サービスも確認されていますが、 全面的な復帰ではなく、 特定サービスに限定した 運航となっています。

また、 ホルムズ海峡の外側に位置する Khor Fakkanなどを 利用する動きも見られます。

ここで重要なのは、 航路を変更すれば リスクが消えるわけではない という点です。

迂回によって港湾混雑という別の問題が発生

船舶や貨物が 代替港へ集中すると、 今度は港湾側に 新たな負荷が発生します。

今回の分析では、 Khor Fakkanで ターミナル処理能力に近い稼働が 見られるほか、 Jeddahでも ヤード利用率の上昇や ターミナル生産性の低下、 バース待ちなどが 示されています。

つまり、 海峡の混乱によって発生する影響は、

  • 航路変更
  • トランシップメント
  • 港湾間の接続性
  • バンカリング
  • 輸送時間
  • 代替港への貨物集中
  • 港湾混雑

へと連鎖していきます。

海運リスクを判断する場合には、 「海峡を通れるか」 だけではなく、 船舶と貨物が その後どこへ移動しているのか まで確認する必要があります。


影響はマラッカ海峡とアジア向け原油輸送にも波及

今回の分析では、 中東周辺だけではなく、 マラッカ海峡まで 対象を広げています。

マラッカ海峡全体を見ると、 ホルムズ海峡を巡る混乱による 主流の船舶交通への影響は 比較的限定的です。

今回のデータでは、 月間4,000隻を超える規模の 船舶が同海峡を通航しており、 ばら積み船と コンテナ船が 大きな割合を占めています。

しかし、 海峡全体が安定しているからといって、 すべての船舶が 同じ動きをしているわけではありません。

イラン関連タンカーでは大きな変化

船舶をさらに細かく見ると、 イラン船籍タンカーの マラッカ海峡通航が 大きく減少したケースが 確認されています。

マラッカ海峡は、 イラン産原油が アジア方面へ輸送される際の 重要なルートでもあります。

大型タンカーが マレーシア東岸沖へ向かい、 そこで STS (Ship-to-Ship:船舶間での洋上積み替え) を行い、 より小型のタンカーが 中国方面へ輸送する流れも 分析されています。

一方で、 一部の通航は Dark Activityによって 通常の追跡では確認しにくい可能性があり、 南側へ迂回して インドネシア方面を経由する 船舶の動きも示されています。

ここでも、 単純なAIS上の 通航船舶数だけでは、 実際の原油輸送の流れを 十分に把握できないことが分かります。

供給元と積み替え地点を変えながら原油フローが再構成

マレーシア向け原油輸送についても、 中東湾岸からの到着減少によって 輸入量が大きく低下した後、 再び回復する動きが 分析されています。

その回復を支えたのは、 中東湾岸からの輸送だけではありません。

西アフリカ、 紅海、 東南アジアなど、 複数の地域からの輸送が 補完する動きが確認されています。

また、 Fujairahや オマーン周辺でのSTSも、 輸送への影響を 緩和する役割を果たしています。

この分析から分かるのは、 海上輸送の混乱が発生しても、 貨物の流れが 単純に「止まる」とは限らない ということです。

航路、 供給元、 積み替え地点、 利用港を変えながら、 貨物の流れそのものが 再構成される 場合があります。

その変化を把握するには、 一つの港や海峡だけではなく、 複数海域の船舶動静を 横断的に確認することが重要です。


Transit Trackerで海上チョークポイントの変化を分析

今回のような 船舶通航分析に活用できるのが、 Lloyd’s List Intelligenceの Transit Trackerです。

Transit Trackerでは、 国際海上輸送にとって重要な 次のチョークポイントについて、 船舶の通航状況を ダッシュボードで確認できます。

  • ホルムズ海峡
  • バブ・エル・マンデブ海峡
  • スエズ運河

確認したい期間を指定し、 船舶通航の変化を 時系列で比較できます。

主に次のような項目を 分析できます。

  • 期間別の船舶通航量
  • 船種別の内訳
  • 航行方向
  • インバウンドとアウトバウンド
  • タンカーのフロー
  • Dark Transit Activity

今回の分析が示しているように、 単に総通航数を 確認するだけではなく、

  • どの船種が増減しているのか
  • 海域へ入る船と出る船で違いがあるのか
  • タンカーだけに大きな変化がないか
  • 通常とは異なるルートが利用されていないか
  • 追跡しにくい通航が存在していないか

といった観点から 分析することができます。

専門家によるヒューマンバリデーション

Lloyd’s List Intelligenceの Transit Trackerでは、 データを機械的に 集計するだけではありません。

Maritime Intelligence Unitの 専門家による ヒューマンバリデーションが 加えられています。

特に、 AIS信号が不完全なケースや、 Dark Activity、 複数の航行ルートが 考えられる海域では、 自動集計された数字だけでは 実態を判断しにくい場合があります。

船舶データに 海事専門家による確認を加えることで、 主要チョークポイントにおける 実際の船舶活動を より正確に評価するための 判断材料として活用できます。

また、 今回の分析資料でも、 船舶位置や航行状況を確認する データソースとして Seasearcherが 使用されています。


船舶データを実務判断にどう活用するか

今回の分析は、 船舶データを 実務で利用する際の 重要なポイントも示しています。

1.通航量の増加をそのまま「安全回復」と判断しない

ホルムズ海峡の例では、 通航量が大きく増加しても、 それだけで 運航会社の信頼が 回復したとは判断できません。

前の期間の通航量が 大きく落ち込んでいれば、 増加率だけが 大きく見える場合があります。

総通航数とあわせて、 過去の水準、 船種、 航行方向などを 確認することが重要です。

2.総通航数ではなく船種別に見る

紅海では、 全体の通航量よりも タンカーへの影響が 大きく表れています。

物流全般への影響を 調査する場合と、 原油・石油製品の輸送リスクを 調査する場合では、 注目すべきデータが異なります。

船種別のデータを見ることで、 どの市場に 影響が集中しているのかを 判断しやすくなります。

3.航路変更の先にある港湾混雑まで見る

危険海域を迂回することで 船舶の安全性を 高められる場合があります。

しかし、 代替ルートや代替港へ 船舶が集中すると、 港湾混雑や バース待ち、 輸送時間の増加など、 新たな問題が生じます。

船舶の航路だけではなく、 その後に利用する港湾まで 確認することで、 サプライチェーンへの 実際の影響を より把握しやすくなります。

4.AISで見える船だけを全体と考えない

Dark Activityや 通常とは異なるルートを利用する船舶が 存在する場合、 AIS画面上で確認できる 船舶だけを集計しても、 実態と一致しない可能性があります。

特に、 制裁、 原油輸送、 高リスク海域などを 調査する場合には、 通常のAIS追跡では 捉えにくい動きも 考慮する必要があります。

5.一つの海域ではなく輸送フロー全体を見る

ホルムズ海峡で起きた変化は、 その海峡だけで完結するものではありません。

紅海、 スエズ運河、 代替港、 マラッカ海峡、 アジア向け原油輸送などへ 影響が波及する可能性があります。

複数海域のデータを確認することで、 貨物が止まったのか、 別ルートへ移ったのか、 別の供給元へ切り替わったのかを より多角的に分析できます。

海運、 物流、 エネルギー、 保険、 金融、 リスク管理など、 海上輸送の変化を 業務判断に利用する担当者にとって、 こうした実際の船舶フローを 把握することは 重要な判断材料となります。


まとめ

今回のLloyd’s List Intelligenceの 分析から分かる重要なポイントは、 一つの通航船舶数だけでは 海運リスクの実態を 判断できない ということです。

ホルムズ海峡では、 通航量が大きく増加しても、 それだけで 海上交通が正常化したとは 判断できません。

紅海では、 総通航数以上に タンカーへの影響が大きく、 バブ・エル・マンデブ海峡と スエズ運河でも 異なる動きが確認されています。

コンテナ輸送では、 航路変更によって フィーダーサービスや 代替港の重要性が高まり、 港湾混雑という 新たな問題も発生します。

さらに、 マラッカ海峡まで視野を広げると、 海峡全体の通航量が 比較的安定していても、 特定のタンカーや 原油輸送ルートには 大きな変化が発生していることが 分かります。

海運リスクを分析する際には、

  • 総通航数
  • 船種
  • 航行方向
  • タンカーのフロー
  • 湾内に滞留する船舶
  • 迂回ルート
  • Dark Activity
  • 代替港の利用状況
  • 港湾混雑
  • 個別船舶の動静

を組み合わせて 評価することが重要です。

Lloyd’s List Intelligenceの Transit Trackerでは、 ホルムズ海峡、 バブ・エル・マンデブ海峡、 スエズ運河について、 指定期間ごとの通航量、 船種、 航行方向、 タンカーフロー、 Dark Transit Activityなどを 確認できます。

ニュースで 「海峡の通航が減少した」 「船舶が航行を再開した」 といった情報を得た際にも、 実際の船舶データを確認することで、 どの船が、 どの方向へ、 どのルートを利用して 動いているのか をより具体的に分析できます。

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