目次
はじめに
生成 AI やエージェント型 AI の登場により、サイバーセキュリティのルールは大きく書き換えられつつあります。 しかし、それは人間の専門性が不要になるという意味ではありません。 むしろ、人間の独創性(human ingenuity)と AI の計算力が組み合わさることで、 新しい「人間と機械の協働」の時代が始まりつつある、と捉えるべきでしょう。
Web アプリケーション/API セキュリティの世界で、この協働を具体的な形にしているのが PortSwigger Burp Suite です。 手動テスト用の Burp Suite Professional に Burp AI を統合し、 さらに大規模な自動スキャンを行う Burp Suite DAST を組み合わせることで、 「人間の直感」と「AI の探索力」を両立したペンテストが可能になります。
本記事では、 Burp AI をどのように活用し、Burp Suite DAST とどう役割分担させると良いのかを、 実務に寄せて整理します。
AI時代のペンテストと Burp Suite
1:「バイオニック・テスター」
AI が攻撃パターンを列挙し、人間がどこに時間を投資するかを判断する。 その結果として生まれるのが、 「バイオニック・テスター(Bionic Tester)」 というイメージです。 これは、AI によって能力を拡張されたテスターであり、 純粋な人間だけでも、純粋な自動ツールだけでも到達しにくい領域を狙う存在です。
2:テスターを拡張する Burp AI の基本スタイル
Burp AI は、Burp Suite Professional に統合されたエージェント型 AI アシスタントです。 特に Repeater との連携を通じて、リクエスト/レスポンスを読み解きながら、 テスターの操作を補助する形で動作します。
- リクエスト内容やレスポンス挙動を解析し、想定される脆弱性クラスを提案
- 試した攻撃がうまくいかなかった場合、別のアプローチへのピボット案を提示
- 検出された問題について、「なぜ危険か」「どう悪用され得るか」を自然言語で説明
重要なのは、Burp AI が「すべてを自動でやってくれる魔法のボタン」ではないことです。 主導権はあくまでテスター側にあり、Burp AI は チェスエンジンのようなデジタル・スパーリングパートナーとして、 テスターの判断と発想を拡張する役割を担います。
Burp AI 実践シナリオ
ここからは、Burp AI を実際のペンテストワークフローにどのように組み込むかを、 代表的なシナリオごとに見ていきます。
1:攻撃パターンの発想とピボット
ペンテストの現場では、「この入力点は怪しい」と感じても、 どの攻撃クラスからどこまで試すかの判断に時間がかかります。 Burp AI を使うことで、
- パラメータの意味やアプリケーションの文脈を踏まえた、攻撃クラス候補のブレインストーミング
- SQL インジェクションが不発だったときに、NoSQL インジェクションや認可まわりなど別のクラスへのピボット提案
- レスポンスの微妙な違いに着目した追加テストケースの提示
といった形で、「思いつき頼り」ではない攻撃パターンの探索がしやすくなります。 最初の攻撃が失敗しても、Burp AI が別の角度からのアプローチを提案し、 最終的にクリティカルな欠陥にたどり着く、といった流れを再現しやすくなります。
2:証拠収集とレポートの効率化
実務で意外と時間を取られるのが、検出結果の「再現手順と根拠の整理」です。 Burp AI は、Repeater 上で行った試行を踏まえて、
- どのペイロードを送ったときに、どのようなレスポンスが返ってきたか
- その挙動がどのような脆弱性クラスに該当し、何が問題なのか
- 攻撃者目線での悪用シナリオや、ビジネスへの影響の例
といった説明文の「たたき台」を生成するのに適しています。 最終的な表現・優先度付けは人間が行うべきですが、 ゼロから文章を書くのではなくレビューと修正に集中できるため、 レポート作成にかかる時間を大きく削減できます。
3:ジュニアテスターのメンタリング
チームにジュニアテスターやローテーションで合流したメンバーがいる場合、 Burp AI は「いつでも相談できる先輩」のような役割も果たします。
- なぜそのペイロードが選ばれたのか、どの脆弱性クラスを狙っているのかを質問する
- 現状のリクエスト/レスポンスから考えられる「次の一手」を尋ねる
- 見つかった問題に対する高レベルな対策方針や、開発者への伝え方を整理させる
こうした対話を通じて、「手順だけを真似する」から「考え方を学ぶ」へと学習の質を高められます。 結果として、チーム全体のスキル平準化とオンボーディング期間の短縮が期待できます。
Burp Suite DAST との役割分担
Burp AI はあくまで Burp Suite Professional の一機能であり、 1 件 1 件のターゲットに対する精密な手動テストを強化する役割を持ちます。 一方で、企業全体の Web サイトや API を継続的にカバーするには、 Burp Suite DAST のようなエンタープライズ向け DAST 基盤が必要です。
1:Burp Suite Professional+Burp AI:精密検査レイヤー
Burp Suite Professional と Burp AI が担当するのは、 「深掘り」と「仮説検証」のレイヤーです。
- バグバウンティやレッドチーム、アドホックなペンテストでの徹底調査
- DAST や他ツールで検出された結果の検証・再現・誤検知チェック
- 新しい攻撃テクニックの試行や、特定アプリケーションのリスク評価
このレイヤーでは、Burp AI が攻撃パターンの発想、ピボット、説明文のたたき台作成を支援し、 テスターの生産性とナレッジ共有を底上げします。
2:Burp Suite DAST:ポートフォリオ全体のレーダー
対して Burp Suite DAST は、 「どの資産を、どの頻度で、どのルールでスキャンし続けるか」という運用レイヤーを担います。
- サイト/フォルダ単位での定期スキャンスケジュールとカスタムタグによる整理
- CI/CD との統合によるブランチ単位・リリース単位の自動スキャン
- OpenAPI/SOAP/Postman コレクションを用いた API スキャンや、短命トークンを含む認証フローの継続スキャン
- クロールと監査を並列に進めるエンジンと、SPA などモダンなフロントエンドへの対応
- Jira 等のチケットシステムとの連携による、検出から修正までのワークフロー統合
イメージとしては、 Burp Suite DAST が「レーダー」として全体を見張り、 Burp Suite Professional+Burp AI が「精密検査と外科手術」を担当する関係です。 限られた人員でも Web 資産全体を効率よくカバーできるようになります。
まとめ
AI は、Web アプリケーション/API セキュリティテストのあり方を大きく変えつつあります。 しかしそれは、人間が不要になるという話ではなく、 人間が本来行うべき判断・洞察に集中するための環境が整いつつあるということでもあります。
Burp Suite Professional+Burp AI は、個々のターゲットに対するハンズオンテストを強化し、 Burp Suite DAST は、企業ポートフォリオ全体の継続的なスキャンとガバナンスを支えます。 両者を組み合わせることで、
- 「どこをどの頻度でスキャンすべきか」という全体設計
- 「見つかった問題をどう深掘りし、どう修正につなげるか」という現場作業
の両方を、AI 時代にふさわしい形にアップデートできます。
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