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はじめに:なぜIPブロックが効かなくなったのか
「不正アクセスを止めたいのでIPブロックしたい」「でも、IP制限が効かない」——。
こうした悩みは、セキュリティ運用の現場でよく聞かれます。
以前は、攻撃元のIPがデータセンターや特定のネットワークに偏っていることが多く、ブロックリストで一定の効果が出ました。
しかし現在の攻撃者は、自身の正体を隠すためにVPN・各種プロキシ・ボット基盤などを多層的に使い分け、
「ブロックされにくい経路」を選んで攻撃します。
その中でも厄介なのが、レジデンシャルプロキシ(家庭用IPの悪用)です。
本記事では、VPNとの違いを整理した上で、なぜ従来のIPブロックが効かないのか、そしてどう対策すべきかを解説します。
用語解説:匿名化インフラの基礎知識(VPN/プロキシ/レジデンシャル)
VPN(Virtual Private Network)
VPNは、VPN事業者のサーバー(多くはデータセンター上)を経由して通信し、利用者の実IPや所在地を隠す仕組みです。
そのため「VPNっぽいIP」をブロックすれば一定の効果が出ることもありますが、攻撃者側も回避手段を進化させています。
プロキシ(Proxy)
プロキシは、ユーザーの代わりに通信を中継するサーバーです。
攻撃者はプロキシを使ってアクセス元を分散させたり、検知回避のために見え方を変えたりします。
レジデンシャルプロキシ(Residential Proxy)
レジデンシャルプロキシは、一般家庭のISP(プロバイダ)から割り当てられた家庭用IPを中継点として利用します。
一見すると「普通のユーザーのアクセス」に見えやすく、従来のブロックリストや単純なIP制限が効きにくいのが特徴です。
なぜ「レジデンシャルプロキシ」が脅威なのか
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1) “クリーンな家庭用IP”に見える
データセンターIPのように「怪しさ」が目立ちにくく、正規ユーザーと区別がつきにくくなります。
その結果、IPブロックを強めるほど正規ユーザーの誤ブロックが増えやすく、運用が破綻しがちです。 -
2) 大量・分散・自動化と相性が良い
クレデンシャルスタフィング(パスワードリスト攻撃)やアカウント乗っ取り(ATO)のように、
試行回数が多い攻撃では「分散して見せる」ことが成功率を押し上げます。レジデンシャルプロキシはこの用途に使われやすい傾向があります。 -
3) “IPが変わる”前提で攻撃される
ブロックしても別の家庭用IPへ切り替えられるため、対策がいたちごっこになりやすく、運用コストが膨らみます。
こうした背景から、レジデンシャルプロキシは各種の注意喚起でも取り上げられており、
「IPだけで判断する」対策は限界があることが明確になっています。
解決策:IPエンリッチメントで“文脈”を理解する
従来のIP制限が効かない最大の理由は、IPアドレス単体では“意味(文脈)”が不足しているからです。
そこで有効なのが IPエンリッチメント(IP Enrichment) です。
IPエンリッチメントは、IPアドレスに対して次のようなコンテキスト情報を付与し、判断精度を上げます。
- これはVPNか?プロキシか?レジデンシャル(家庭用)か?
- どの組織・ネットワーク(ASN/事業者)に属するか?
- 匿名化や悪用の兆候があるか?
これにより、「怪しいから全部ブロック」ではなく、正規ユーザーのUXを落とさずに段階的な対策が可能になります。
- 低リスク:通常通り通す
- 中リスク:追加認証(ステップアップ)やレート制限
- 高リスク:保留・制限・ブロック
Spurの活用:レジデンシャルプロキシ検知が必要な理由
レジデンシャルプロキシ対策で重要なのは、単なる「IPの国判定」や「ブラックリスト」ではなく、
そのIPが“何に属するか(種別・基盤)”を見抜くことです。
Spurは、VPN・プロキシ・レジデンシャルプロキシなどの匿名化インフラを判別するためのデータと仕組みを提供し、
特にレジデンシャルプロキシやモバイルIPの検知を重視した運用設計が可能です。
- IPブロックが効かない理由を“構造的に”潰す:家庭用IPに見えるアクセスの背景を判別し、対策を段階化
- 誤ブロックを増やしにくい:一律遮断ではなく、リスクに応じたアクションへ
- 用途に合わせた導入:リアルタイム判定(API)/ログ基盤での大規模照合(Data Feeds)など
「IP制限を強めたら問い合わせが増えた」「CAPTCHAを強くしたら離脱が増えた」——。
こうした“防御とUXのジレンマ”を解くために、レジデンシャルプロキシ検知を含むIPエンリッチメントは有効な選択肢になります。
失敗しない評価(PoC)の進め方
PoCで重要なのは「検知できるか」だけでなく、運用で判断が変わるかを確認することです。
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ステップ1:場面を1つに絞る
例:ログイン(ATO対策)/サインアップ(大量登録対策)/特定APIの乱用対策 -
ステップ2:KPIを決める
例:不正通過率、誤ブロック率、追加認証の発生率、サポート問い合わせ数、調査工数 -
ステップ3:アクションを先に設計する
レジデンシャル検知時に「ブロック」なのか「ステップアップ」なのか、段階ルールを決めて評価します。 -
ステップ4:ログに残して振り返れる形にする
後から「どの判定が効いたか」を検証できるよう、判定結果をログ・SIEMへ出す設計にします。
まとめ
「IPブロックできない」と感じる背景には、攻撃者がVPNだけでなくレジデンシャルプロキシ(家庭用IP)を悪用し、
正規ユーザーに紛れ込む現実があります。
この状況では、IPアドレス単体の制限ではなく、IPエンリッチメントで“文脈”を付けて判断することが重要です。
とくにレジデンシャルプロキシ検知は、誤ブロックを増やさずに不正を止めるための要点になります。
まずはログインやサインアップなど、被害が出やすいポイントを1つ選び、PoCで効果を見える化するのがおすすめです。
当ブログでは今後も、脅威動向やリサーチ結果を実務にどう結びつけるかという観点で発信してまいります。
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