Hex-Rays はリバースエンジニアリングツールの最新バージョン IDA 9.2 をリリース。解析精度の向上、UI の刷新、Go 言語対応の強化、開発者向け API 公開など、多方面で大幅な進化が盛り込まれています。
Go 言語対応の強化
Go バイナリの逆コンパイル出力が改善され、特に複数返り値を扱う タプル型 が導入されました。これにより、関数定義や呼び出しの表現が自然になり、可読性が大幅に向上します。実装の意図や値の受け渡しが追いやすく、レビューやデバッグの効率にも寄与します。
逆コンパイル関連の新機能
逆コンパイラ内部の処理を可視化する Microcode Viewer が追加。Hex-Rays 独自の中間表現(マイクロコード)を段階的に確認でき、動作理解やプラグイン開発時の検証が容易になりました。 また「Show all xref decompilations」により、データ/コードの参照先を網羅的に逆コンパイル表示して追跡できます。
デバッガの改良
レジスタビューが刷新され、自動ポインタ解参照やデータ型に基づく色分け表示に対応。さらに x64 PE バイナリでのコールスタック再構築精度が向上し、現場の解析効率が底上げされています。
アーキテクチャ対応の拡張
RISC-V と ARM の switch
構造検出が改善され、ARM スタック追跡の精度も向上。
産業用マイコンでは TriCore の新命令セット(tc4x)に対応し、v850/rh850 ではマクロ命令や可再配置オブジェクト処理が強化されました。
さらに TMS320C6 の SIMD 命令にも対応。汎用 CPU から組込みまで、幅広い対象での解析品質が向上しています。
- RISC-V/ARM:switch 検出・スタック追跡の改善
- TriCore:tc4x(TC1.8)命令対応
- v850/rh850:マクロ命令・再配置処理の改善
- TMS320C6:32bit SIMD 命令対応
ユーザーインターフェイスの刷新
任意の場所に素早く移動できる Jump Anywhere、ウィジェット間で履歴を共有する統一位置履歴、 参照関係をインタラクティブに可視化する Dynamic Xref Graph、呼び出し関係を統合表示する Xref Tree を搭載。 フォントサイズの拡縮ショートカットや型エディタのタブ補完など、日常作業の使い勝手も磨かれました。
内部基盤の刷新(Qt6・型パーサー)
UI 基盤を Qt6 に移行。従来の Qt5 プラグインも shim 経由で動作可能ですが、一部では調整が必要になる可能性があります。 また、型パーサーは LLVM の LibTooling を採用する構成に刷新され、今後の解析精度や互換性強化の土台となります。
開発者向けのオープン化
新たに Domain-API が公開され、C++ SDK と IDAPython SDK もオープンソース化。 プラグインやスクリプトによる拡張性が高まり、コミュニティ主導の改善が期待されます。
まとめ
IDA 9.2 は、Go 対応やマイコン系アーキテクチャの強化、UI 改良、逆コンパイラ内部の可視化など、 実務の生産性を直接押し上げるアップデートです。さらに Domain-API と SDK の公開によりエコシステムの拡大が見込まれ、 ツールの拡張性・将来性の双方で大きな前進といえます。