Brute Ratel C4 技術概要書
概要と目的
Brute Ratel C4は、認可されたテストシナリオにおける正当なセキュリティツールとして設計されており、特にエンタープライズ環境を対象として、組織が脆弱性を特定し、防御態勢を改善することを支援します。このフレームワークは、高度持続的脅威(APT)の戦術、技法、手順(TTP)を反映した、ステルス性、回避性、そして洗練されたポストエクスプロイテーション機能を重視しています。
プラットフォームの名称は、その二重の性質を反映しています。「Brute」は攻撃的な侵入能力を示唆し、「Ratel」(ラーテル:ミツアナグマ)は粘り強さと適応性を意味します。「C4」は「Command、Control、Collaborate、Communicate」の略で、レッドチーム活動に対する包括的なアプローチを強調しています。
コアアーキテクチャとコンポーネント
コマンド・アンド・コントロールサーバー
BRc4サーバーは、侵害されたシステムを管理し、攻撃を調整するための中央ハブとして機能します。オペレーターが複数のキャンペーンを管理し、リスナーを設定し、チーム活動を調整するためのWebベースのインターフェースを提供します。サーバーは複数の同時オペレーターをサポートし、堅牢なログ記録とレポート機能を含んでいます。
Badgerインプラント
BRc4のポストエクスプロイテーション機能の中核となるのは、「Badger」インプラントです。これらは軽量でファイルレスなペイロードであり、侵害されたシステムとの持続的な通信チャネルを確立するよう設計されています。これらのインプラントは高度にモジュラー化されており、特定の環境と目的に合わせてカスタマイズできます。
Badgerインプラントの注目すべき特徴:
- ディスクベースの検出を回避するためのメモリ常駐実行
- シグネチャベース検出を回避するためのポリモーフィック特性
- 効率的なリソース活用のためのマルチスレッド機能
- 通常のネットワークトラフィックに紛れるための内蔵休眠機能とジッター機能
通信プロトコル
BRc4は、HTTP/HTTPS、DNS、名前付きパイプなど、インプラントとの接続を維持するための複数の通信チャネルをサポートしています。このフレームワークは、C2通信を正当に見せかけ、ネットワーク監視による検出を回避するために、洗練されたトラフィック シェーピングと暗号化を実装しています。
主要機能と能力
回避技術
BRc4の主要な売りの一つは、その高度な回避機能です。このフレームワークは、現代のセキュリティ管理を回避するための数多くの技術を組み込んでいます。
アンチウイルス回避
BRc4は、メモリ内実行、暗号化ペイロード、動的コード生成など、アンチウイルス検出を回避するための複数の戦略を採用しています。インプラントは、行動分析エンジンを回避するために行動パターンを変更できます。
EDR回避
このフレームワークには、APIフック回避、直接システムコール、一般的な検出シグネチャを回避するプロセスインジェクション手法など、エンドポイント検出・対応(EDR)ソリューションを回避する特定の技術が含まれています。
ネットワークセキュリティ回避
BRc4は、トラフィックを正当なプロトコルに偽装し、ドメインフロンティング技術を実装し、ディープパケットインスペクションに耐性のある暗号化通信チャネルを使用できます。
ポストエクスプロイテーションモジュール
このフレームワークは、様々な攻撃シナリオをカバーする広範なポストエクスプロイテーションモジュールライブラリを提供しています。
認証情報収集
LSASSメモリダンプ、ブラウザ認証情報抽出、Kerberosチケット操作など、侵害されたシステムからパスワード、トークン、証明書を抽出するための複数の技術。
ラテラルムーブメント(横方向の移動)
WMI実行、PowerShellリモーティング、SMBエクスプロイテーション、Active Directoryの列挙など、ネットワーク環境全体に拡散するための包括的なツール。
永続化メカニズム
レジストリ変更、スケジュールタスク、サービス作成、COMハイジャックなど、侵害されたシステムへのアクセスを維持するための様々な方法。
データ流出
データ損失防止(DLP)システムを回避しながら、ステルス性を維持して機密データを特定、収集、抽出する機能。
コラボレーション機能
BRc4は、マルチオペレーター環境向けに設計された機能でチームコラボレーションを重視しています。
- チームメンバー間でのリアルタイム活動同期
- 包括的な監査証跡と活動ログ
- ロールベースアクセス制御とオペレーター権限
- 統合されたレポートとドキュメント機能
技術実装
ペイロード生成
BRc4は、様々な形式と配信方法をサポートする柔軟なペイロード生成機能を提供しています。このフレームワークは、特定のターゲット環境に合わせたシェルコード、実行可能ファイル、DLL、Officeマクロを作成できます。
高度な機能:
- ステージレスおよびステージペイロードオプション
- カスタム暗号化およびエンコーディングスキーム
- アンチ・アナリシスおよびサンドボックス回避技術
- 人気のあるエクスプロイテーションフレームワークとの統合
プロセスインジェクション技術
このフレームワークは、正当なプロセス内でコードを実行するための洗練されたプロセスインジェクション手法を実装しています。
- 従来のDLLインジェクション
- プロセスホロウィングとプロセスドッペルゲンギング
- アトムボンビングと手動DLLマッピング
- WoW64環境向けのHeaven's Gate技術
メモリ管理
BRc4は、フォレンジック アーティファクトを回避するために、メモリベースの操作を重視しています。
- モジュールとライブラリのリフレクティブローディング
- メモリ内アセンブリ実行
- 動的API解決と呼び出し
- 機密データストレージのためのヒープ暗号化
正当な使用事例
レッドチーム活動
BRc4は、認可されたレッドチーム評価のための包括的なプラットフォームとして機能し、組織が洗練された脅威に対する防御措置をテストするのに役立つ現実的な敵対者シミュレーション機能を提供します。
侵入テスト
セキュリティコンサルタントと内部セキュリティチームは、BRc4を使用して徹底的な侵入テストを実施し、複雑なエンタープライズ環境における脆弱性を特定し、セキュリティ管理を検証します。
セキュリティ研究
このフレームワークは、研究者が新しい攻撃技術、回避方法、防御対策を開発・テストできるよう、セキュリティ研究活動をサポートします。
訓練と教育
BRc4は、制御された教育環境で使用され、セキュリティ専門家に高度な脅威検出、インシデント対応、脅威ハンティング技術を訓練するために活用できます。
ライセンスとアクセス制御
Brute Ratel C4は、悪用を防ぐために設計されたいくつかの制限を伴う商用ライセンスモデルを採用しています。
認証プロセス
見込みユーザーは以下を含む認証プロセスを受ける必要があります。
- 身元確認と身元調査
- 正当なセキュリティ専門家としての地位の証明
- 組織所属の確認
- 意図された使用事例の文書化
使用制限
ライセンス契約には、以下を禁止する特定の条項が含まれています。
- 悪意のあるまたは未承認の活動での使用
- アクセス認証情報の配布または共有
- コアコンポーネントのリバースエンジニアリングまたは改変
- 適切な許可なしでの環境での使用
価格構造
BRc4は、オペレーター数、含まれる機能、提供されるサポートレベルに基づく異なる階層を持つサブスクリプションベースの価格モデルを使用しています。コスト構造は、正当なセキュリティ組織にとってアクセスしやすく、同時にカジュアルな悪用を抑制するよう設計されています。
セキュリティ上の懸念と論争
二重使用の性質
多くのサイバーセキュリティツールと同様に、BRc4もその二重使用(dual-use)の性質のために精査の対象となっています。これは正当なセキュリティテスト用に設計されていますが、その高度な機能により悪意ある攻撃者にとっても魅力的な存在となっています。
検出の課題
このフレームワークの洗練された回避技術は、セキュリティチームとベンダーにとって課題を提示します。従来のセキュリティ管理を回避する能力は、特定の検出方法と対策の継続的な開発につながっています。
脅威アクターによる採用
アクセス制御にもかかわらず、脅威アクターがBRc4を取得し、悪意のあるキャンペーンで使用したという報告があります。これにより、プラットフォームへの精査が強化され、正当なセキュリティツールと悪用の可能性とのバランスについての議論が生じています。
検出と緩和
ネットワーク指標
セキュリティチームは、BRc4活動のいくつかのネットワークベース指標を探すことができます。
- 異常なHTTP/HTTPSトラフィックパターン
- 疑わしいドメインへのDNSクエリ
- 非標準プロトコルによる暗号化通信チャネル
- 定期的な間隔でのトラフィックビーコニング
ホストベース指標
システムレベルの指標には以下が含まれます。
- 異常なプロセスインジェクション活動
- 正当なプロセスからの予期しないネットワーク接続
- リフレクティブローディングと一致するメモリアーティファクト
- 永続化に関連するレジストリまたはファイルシステムの変更
行動分析
現代のEDRと行動分析ツールは、以下を通じてBRc4活動を特定できます。
- プロセス関係の異常
- 異常なAPIコールパターン
- メモリ割り当てと実行パターン
- プロセス間通信活動
他のC2フレームワークとの比較
Cobalt Strike
BRc4はしばしば、より確立された商用C2フレームワークであるCobalt Strikeと比較されます。
- BRc4は最新の回避技術とアンチ・アナリシス機能を重視
- Cobalt Strikeはより広範囲な市場採用とコミュニティサポートを持つ
- BRc4は悪用を減らすことを目的としたより制限的なライセンスを提供
- 両プラットフォームは包括的なポストエクスプロイテーション機能を提供
オープンソースの代替案
Empire、Covenant、Metasploitなど、いくつかのオープンソースC2フレームワークが存在します。
- BRc4はほとんどのオープンソース代替案よりも高度な回避機能を提供
- 商用サポートとドキュメンテーションはエンタープライズユーザーに利点を提供
- オープンソースツールはより大きなカスタマイゼーションの柔軟性を提供
- コスト面では、一部の組織にとってはオープンソースソリューションの方が有利
開発とアップデート
継続的開発
BRc4開発チームは、新興の脅威と防御技術に対処するためにフレームワークを積極的に更新しています。定期的なアップデートには以下が含まれます。
- 新しい回避技術とバイパス手法
- 追加のポストエクスプロイテーションモジュール
- 改善されたユーザーインターフェースとコラボレーション機能
- バグ修正とパフォーマンス最適化
コミュニティフィードバック
厳格なアクセス制御を維持しながら、BRc4チームは正当なユーザーからのフィードバックを取り入れて、機能を改善し、現場の運用要件に対処しています。
研究統合
このプラットフォームは進行中のセキュリティ研究から恩恵を受け、セキュリティコミュニティによって開発・検証された新しい技術と方法論を組み込んでいます。
法的・倫理的考慮事項
承認要件
BRc4の使用には、システム所有者からの適切な承認と、適用される法律および規制の遵守が必要です。未承認の使用は、ほとんどの管轄区域において違法行為を構成します。
専門的責任
BRc4を使用するセキュリティ専門家は、高い倫理基準を維持し、彼らの活動が専門的行動規範と組織ポリシーに整合することを確保する必要があります。
開示と報告
BRc4ベースの評価からの結果は、セキュリティ改善を促進するために、適切にドキュメント化され、適切な利害関係者に開示されるべきです。
今後の展開
新興脅威
BRc4は、以下を含む新興脅威の状況に対処するために進化を続けています。
- クラウドネイティブ環境とコンテナ化アプリケーション
- モノのインターネット(IoT)と運用技術(OT)システム
- モバイルとエンドポイントセキュリティの課題
- ゼロトラストアーキテクチャ評価
防御統合
今後の展開には、包括的なセキュリティ評価機能を提供するための防御ツールとプラットフォームとのより密接な統合が含まれる可能性があります。
人工知能
AIと機械学習技術の組み込みは、攻撃機能と防御回避方法の両方を強化する可能性があります。
結論
Brute Ratel C4は、認可されたセキュリティ評価のための高度な機能を提供する洗練された商用レッドチームフレームワークを表しています。回避、コラボレーション、現実的な敵対者シミュレーションへの重点は、組織の防御態勢を改善しようとするセキュリティ専門家にとって価値のあるツールとなっています。
ただし、すべての強力なセキュリティツールと同様に、BRc4は合法的なセキュリティ研究と悪用の可能性とのバランスについて重要な問題を提起します。このフレームワークの商用ライセンスモデルとアクセス制御は、ツールの有効性を維持しながらこれらの懸念に対処する試みを表しています。
BRc4を検討しているセキュリティ専門家にとって、組織のニーズ、法的要件、倫理的考慮事項の慎重な評価が不可欠です。認可された環境内で適切に使用された場合、BRc4はセキュリティ脆弱性に対する価値ある洞察を提供し、組織が実世界の脅威により良く備えるのに役立ちます。
攻撃側・防御側双方のサイバーセキュリティ能力が進化し続ける中で、BRc4のようなツールはセキュリティのエコシステムにおいて重要な役割を担い続けることになり、その正当な応用と悪用の可能性の両方に継続的な注意が必要となります。