Jawset PostShotは、ドイツ企業Jawset Visual Computingによって開発された先進的な3D再構築ソフトウェアです。Radiance Field(ラディアンスフィールド)技術を用いて、標準的な写真やビデオ映像からフォトリアリスティックな3Dシーンやオブジェクトを作成します。現行のPostshotでは、Gaussian Splatting(Splat)を中心としたワークフローが提供されています。
コア技術と機能
PostShotの中核は、2次元画像から3次元シーンを再構築するラディアンスフィールド技術を活用しています。これはコンピュータビジョンとニューラルレンダリングにおける大きな進歩を表しており、長年の研究目標を専門家や愛好家にとって実用的な現実に変えています。PostshotはRadiance Field技術に基づき、主にGaussian Splatting(Splat)を用いた再構築・レンダリングを行います。NeRFはRadiance Field分野で一般に知られる関連技術ですが、現行のPostshotのプロファイルとしてはNeRFは提供されていません。
PostShotが特に利用しやすい理由は、特殊なスキャン機器や深度センサーを必要としないことです。ユーザーはスマートフォンを含む任意の標準的なRGBカメラで映像を撮影でき、ソフトウェアがAI駆動の処理パイプラインを通じて自動的に3次元シーンを再構築します。
主な特徴と機能
無制限のスケーラビリティ
PostShotは事実上あらゆるサイズのプロジェクトを処理し、無制限の画像数、無制限のモデルサイズ、4Kや8Kを含むあらゆる解像度の画像をサポートしています。これにより、小さな物体から大規模な環境まで対応できます。
柔軟な入力サポート
このソフトウェアは、画像用にJPEG、PNG、TIF、EXR、DNG、RAW、ビデオ用にMOV、MP4、MKVなど、様々な画像およびビデオフォーマットを受け入れます。ほとんどのカメラメーカーのRAWフォーマット、ロスレスおよびHDRビデオファイルもサポートしており、プロフェッショナルなワークフローに柔軟性を提供します。
高度な処理機能
- 背景と遮蔽物除去のための画像マスキング機能
- 特定の領域に計算リソースを集中させるためのRegion-of-Interest(ROI)トレーニング
- COLMAP、RealityScan、BlockExchange形式などのサードパーティフォトグラメトリーツールからのカメラポーズとスパース点群のインポート
- 自動シーンアライメントのためのAprilTag検出
- 測量およびマッピングアプリケーション向けの地理参照データのサポート
- プロフェッショナルなカラーワークフロー向けのACESサポートを含む色空間(カラースペース)処理
ローカル処理
公式には、処理と機械学習ステップはユーザーがアクセスできる端末上で実行され、コンテンツは端末に残るとされています。一方で、利用にはインターネット接続が必要で、ライセンス管理・認証・サポートのために端末・システムに関する技術データが収集される場合があります(ただし技術データにコンテンツは含まれない旨が明記されています)。
編集機能
PostShotは、再構築されたシーンの特定部分を選択および編集するためのツールを提供し、ユーザーが3Dモデルを洗練し完成させることができます。ユーザーは領域をマスクし、領域を切り取ったり、結果を最適化するために様々なパラメータを調整できます。
プロフェッショナルな統合
PostShotは、複数の方法でプロフェッショナルな制作パイプラインにシームレスに統合されるように設計されています。
Adobe After Effects統合
このソフトウェアにはAfter Effects用のプラグインが含まれており、ユーザーがPostShotシーンを直接コンポジットワークフローに読み込むことができます。これにより、使い慣れたAfter Effects環境内でカメラ制御、アニメーション、レンダリングが可能になり、ラディアンスフィールドシーンを従来のVFX要素と簡単に組み合わせることができます。
Unreal Engineサポート
PostShotはUnreal Engine 5.4〜5.7に対応するプラグインを提供しており、ゲームエンジンやバーチャルプロダクション環境内でラディアンスフィールドシーンのリアルタイムレンダリングを可能にします。ユーザーは.psht(PostShot)ファイルを直接UnrealのContent Browserにドラッグ&ドロップでき、フォトリアリスティックにキャプチャされた環境をインタラクティブな3Dアプリケーションに取り込むことができます。
エクスポート機能
- Gaussian SplattingモデルをPLY形式でエクスポートし、様々なサードパーティビューアやアプリケーションで使用可能
- カメラポーズと点群を他のソフトウェアで使用するためにエクスポート可能
- カスタマイズ可能なカメラ軌道でレンダリングされた動画を作成可能
- SDR(8ビット)とHDR(16ビットまたは32ビット)の両方のカラースペースをサポート
コマンドラインインターフェース
スタジオおよび自動化ワークフロー向けに、PostShotは上位プランでコマンドラインインターフェースを備えており、バッチ処理と自動化パイプラインへの統合を可能にします。
ワークフローとユーザーエクスペリエンス
PostShotのワークフローは非常に簡単で、ラディアンスフィールド再構築を作成するための技術的障壁を最小限に抑えるように設計されています。
- 撮影: 任意のカメラを使用して、複数の角度から被写体のビデオを録画または写真を撮影します。物体の場合、ユーザーは通常、異なる高さで3〜4周分、被写体の周りを歩きながら撮影します。重要なのは、できるだけ多くの視点から被写体を撮影することです。
- インポート: ビデオファイルまたは画像のフォルダをPostShotに直接ドラッグ&ドロップします。インターフェースには設定オプションが表示されますが、デフォルト設定はほとんどのケースでうまく機能します。
- 処理: PostShotは自動的に画像を分析し、カメラ位置を追跡し、スパース点群を生成し、ラディアンスフィールド表現をトレーニングします。アルゴリズムが3D構造を学習していく過程で、ユーザーはリアルタイムでシーンが構築されていくのを見ることができます。
- 編集とレンダリング: トレーニングが完了すると、ユーザーは仮想カメラを作成し、焦点距離や視野角などのプロパティを調整し、カメラパスをアニメーション化し、最終的な動画をレンダリングしたり、3Dシーンを他のアプリケーションで使用するためにエクスポートしたりできます。
インポートから完成した再構築までの全プロセスは、シーンの複雑さ、入力画像の数、ハードウェア性能に応じて、数分から数時間かかることがあります。
システム要件
PostShotは現在、Windowsプラットフォーム(Windows 10以降)でのみ利用可能です。このソフトウェアは、GPU負荷の高い処理を行うため、特定のハードウェア要件があります。
- GPU: Compute Capability 7.5以上のNVIDIA GPU(GeForce RTX 2060、Quadro T400/RTX 4000以上)
- オペレーティングシステム: Windows 10以降
このソフトウェアは機械学習とレンダリング操作にCUDA技術を活用しているため、NVIDIA GPUが必要です。最近のアップデートでは、RTX 5090などの最新のNVIDIA Blackwellアーキテクチャ GPUのサポートが追加されました。
ライセンスと価格
PostShotのライセンス構造は、2025年8月のバージョン1.0のリリースに伴い大幅な変更が行われ、完全に無料のベータ版から階層型サブスクリプションモデルに移行しました。現在の価格プランは以下の通りです。
無料プラン(€0/月)
- 無制限の画像数、ビデオ長、モデルサイズ
- SDR(8ビット)カラーで最大4K解像度のトレーニングとレンダリング
- カメラポーズとポイントのエクスポート
- COLMAPおよびRealityScan形式からのインポート
- 非商用利用に限定
- 保存されたファイルは無料プラン内でのみ使用可能
Indieプラン
- 無料プランのすべての機能
- ウォーターマークなしのレンダリング
- 任意のデバイスで使用可能なフローティングライセンス
- すべてのプラン層で互換性のある保存ファイル
- PLY形式でのGaussian Splattingモデルのエクスポート
- Unreal EngineおよびAfter Effects用の無制限のレンダーノード
- 商用利用可能
Studioプラン
- Indieプランのすべての機能
- EXR、TIF、DNG、RAW画像フォーマットのサポート
- HDR(16ビットまたは32ビット)カラーで4K以上のトレーニングとレンダリング
- 自動化のためのコマンドラインインターフェース
- AprilTagを使用した自動シーンアライメント
- BlockExchange形式からのインポート
2025年9月26日以前にベータライセンスを取得したユーザーは、ライセンスが新しい無料プランに変換されました。有料プランの導入は、PostShotが研究ソフトウェアから実運用可能な商用ツールへと成熟したことを反映しています。
トレーニング設定と最適化
PostShotは、様々なパラメータを通じてトレーニングプロセスを広範囲に制御できます。
Max Splat Count(最大スプラット数)
このパラメータは、トレーニング中に生成されるGaussian Splattingプリミティブの総数を制限し、モデルの複雑さ、視覚的品質、メモリ要件に直接影響します。数値が高いほど、より詳細な再構築が可能ですが、より多くの計算リソースが必要になります。
トレーニングプロファイル
ユーザーは、特定の用途に合わせた異なる最適化プロファイルを選択でき、トレーニング時間、品質、ファイルサイズのバランスを取ることができます。
関心領域(Region-of-Interest)トレーニング
この機能により、ユーザーはシーンの特定領域に計算リソースを集中させることができ、特定の領域のみが高詳細を必要とする場合に効率が向上します。
マスキング
ユーザーは、再構築を妨げる可能性のある不要な要素、背景領域、または遮蔽物をマスクでき、よりクリーンな最終モデルを作成できます。
ユースケースと応用分野
PostShotは、様々なプロフェッショナルおよびクリエイティブな用途に対応しています。
ビジュアルエフェクトと映画制作
実写映像に合成するためのフォトリアリスティックな3D環境とオブジェクトの作成、撮影された実世界のロケーションを通じた動的なカメラ移動の実現。
建築と不動産
シンプルなビデオウォークスルーから建物や空間の没入型3Dツアーを生成し、クライアントがあらゆる角度から物件を探索できるようにします。
ゲーム開発
実世界の環境とオブジェクトを撮影して、ゲームエンジンで非常に詳細なアセットとして使用します。特に背景環境やヒーロープロップに有用です。
文化遺産と記録保存
歴史的遺跡、遺物、場所を高忠実度の3Dで保存し、アーカイブ、研究、バーチャルミュージアムアプリケーションに活用します。
製品ビジュアライゼーション
物理的な製品のインタラクティブな3D表現を作成し、eコマース、マーケティング、デザインレビューに使用します。
バーチャルプロダクション
撮影された実世界の要素をUnreal Engineを使用したバーチャルプロダクションワークフローに統合し、リアルな背景とセット拡張を実現します。
利点と制限
利点
- 最小限の技術的専門知識で使用できるユーザーフレンドリーなインターフェース
- 従来のフォトグラメトリーワークフローと比較して高速な処理
- 標準的なカメラで動作—特殊な機器は不要
- 完全なローカル処理によりデータプライバシーとコンテンツの所有権を保証
- Unreal EngineやAfter Effectsなどの業界標準ツールとのシームレスな統合
- プロフェッショナルな制作に適した高品質なフォトリアリスティック出力
- 定期的なアップデートとアクティブな開発
制限
- Windowsのみのプラットフォーム(macOSやLinuxのサポートなし)
- 特定のコンピュート機能を持つNVIDIA GPUが必要
- 最良の結果には、十分な画像の重なりを確保した慎重な撮影技術が必要
- 反射面、透明な素材、動く物体は課題となる可能性がある
- 大規模なデータセットには、かなりの処理時間とVRAMが必要
- サブスクリプションモデルは、ホビーユーザーや小規模プロジェクトにはコスト面で障壁となる可能性がある
コミュニティとサポート
Jawsetは、基本的なワークフローから高度な機能まですべてをカバーする詳細なユーザーガイドを含む包括的なドキュメントを維持しています。同社はメールによるサポートを提供し、ユーザーにフィードバック、バグレポート、結果の共有を奨励しています。
このソフトウェアは、活発なユーザーコミュニティを育成しており、ユーザーは技術を共有し、問題をトラブルシューティングし、ワークフローについて議論しています。
技術的背景:Gaussian Splattingの理解
PostShotの機能を理解するには、Gaussian Splatting技術を理解することが役立ちます。フォトグラメトリーのような従来の3D再構築方法は、テクスチャ付きのポリゴンメッシュを作成します。Neural Radiance Fieldsは、ニューラルネットワークを使用してシーンの体積表現を学習するという点でパラダイムシフトをもたらしました。
Gaussian Splattingは、NeRFのいくつかの制限に対処する進化形として登場しました。すべてのピクセルに対してニューラルネットワークにクエリを実行する(これは計算コストが高い)代わりに、Gaussian Splattingは、数百万の3Dガウス関数—空間内のぼやけた色付きの塊の数学的記述—としてシーンを表現します。これらのガウス関数は、スプラッティング用に適応された従来のラスタライゼーション技術を使用して非常に高速にレンダリングでき、リアルタイムの可視化が可能になります。
各ガウスプリミティブは以下を保存します
- 3D空間内の位置
- 色(RGB値)
- 不透明度/透明度
- サイズと形状(共分散)
- 向き
トレーニング中、PostShotは、それぞれのカメラ視点から入力画像の外観と一致するように、数百万のガウス関数全体でこれらのパラメータを最適化します。その結果、フォトリアリスティックな品質を維持しながら、新しい視点からレンダリングできる表現が得られます。
代替ソフトウェアとの比較
PostShotは、ラディアンスフィールドツールのエコシステムに存在します。代替ソフトウェアには以下が含まれます。
- Luma AI(クラウドベース、よりシンプルだが制御が少ない)
- Nerfstudio(オープンソース、より技術的、プログラミング知識が必要)
- RealityCapture(フォトグラメトリー重視、PostShotへのエクスポートが可能)
- Polycam(モバイル重視、よりシンプルなワークフロー)
PostShotは、使いやすさ、プロフェッショナルな機能、ローカル処理、制作パイプライン統合のバランスによって差別化されています。コーディングスキルを必要とする研究指向のツールと、限定されたエクスポートオプションを持つ簡素化されたコンシューマーアプリケーションとの間のギャップを埋めています。
今後の開発
まだ開発が活発に進められている比較的新しいソフトウェアとして、PostShotは進化を続けています。プレリリースビルドは定期的に新機能で更新されますが、これらは公式リリースよりも安定性が低い場合があります。ユーザーガイドには、プレリリースビルドの新機能は通常まだドキュメント化されていないと記載されています。
最近のアップデートは、パフォーマンスの向上、安定性の強化、フォーマットサポートの拡大、プロフェッショナルなツールとのより深い統合に焦点を当てています。開発ロードマップは、技術的進歩とワークフローの洗練の両方を優先しているようです。
まとめ
Jawset PostShotは、先進的な3D再構築技術の民主化における重要なマイルストーンを表しています。高度なニューラルレンダリング技術を使いやすいインターフェースにパッケージ化し、プロフェッショナルなプロダクションツールと統合することで、特殊なハードウェアや深い技術的専門知識を必要とせずに、クリエイターがフォトリアリスティックな3Dシーンをキャプチャして作業できるようにします。
このソフトウェアのローカル処理アプローチ、制作ワークフローへの重点、使いやすさとプロフェッショナルなコントロールのバランスにより、VFXアーティスト、ゲーム開発者、建築家、コンテンツクリエイターにとって価値あるツールとして位置づけられています。サブスクリプション価格への移行は議論を呼びましたが、これはソフトウェアが実験的なベータ版からプロダクション対応の商用製品への進化を反映しています。
3Dビジュアライゼーション、バーチャルプロダクション、またはフォトリアリスティックな3Dキャプチャを必要とする分野で働くプロフェッショナルや愛好家にとって、PostShotは従来のフォトグラメトリーと最先端のニューラルレンダリングを橋渡しする魅力的なソリューションを提供します。シンプルなビデオ映像を完全に探索可能な3Dシーンに変換する能力は、業界全体で新しいクリエイティブな可能性を開き続けています。