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▼AISとは

AISのテクノロジーと限界について。
またロイズリストインテリジェンスでAISの限界を打破する方法とは。

 AISの背景

周辺海域の他の船の身元、位置や針路を、船の航海士が確認できることによって、海の安全を改善するために、Automatic Identification System (自動船舶識別装置:AIS)は当初導入されました。


2002年以降、国際海事機関(IMO)は、AIS送受信機を300総トン以上の大型船舶への搭載を義務づけました。AIS装置は、2,3秒ごとに自動的に VHF電波でデータ信号を発信します。この信号には、船名、MMSI番号(海上移動業務識別コード)、時刻、緯度、経度、速度、針路とコースの詳細が 含まれています。


国際的に登録された100,000以上の船が現在運行中で、船のAISデータは、地上受信機と地球を周回する衛星の受信機から得られます。 過去10年にわたってAISを広範囲で使用することで、VHF信号放送で船舶の商用運行や海上警備の効率向上に役立ってきました。

地上および衛星AISデータのルーティングマップ

【図1】地上および衛星AISデータのルーティングマップ

 AISテクノロジーの特徴と欠点

海運業と海上運行を理解するうえで、AISの利点は重要です。 しかし同時にテクノロジーには限界があり、限界があることは他のAISデータプロバイダが公にすることはありません。


1. AISはVHF電波で送信します。

【欠点】AISは、GPS(全地球位置測定システム)とは異なります。 GPSが気象条件や位置に関係なく作動する衛星ベースのナビゲーション・システムであるのに対し、AISはVHF電波で送信されます。 VHF電波は直進するため、伝搬距離は視界の限界(高い場所に位置している地上受信機からのおよそ20-30マイル)ほどで、地球の湾曲によって制限されます。 VHF電波は大気の状況や大陸の影響を受け、信号と地上受信機の範囲に変化をもたらします。


2. AISはローカルエリアで、少数の船舶を対象として設計されています。

AISはタイムスライスを採用することで、他の船舶が同時に使用していない無線周波数で各自のデータを送信することが可能です。 指定されたタイムスロットでAISの送信が行われるので、電波干渉によって情報が失われることはありません。


【欠点】大きな港などたくさんの船舶が集まるエリアでは、干渉によってタイムスロットを逃し、 船の信号が送信されない可能性があります。

AISタイムスライスの図

【図2】AISタイムスライスの図


3. AIS信号はMMSI番号で識別されます。

【欠点】IMO番号と違って、MMSI番号は管理されておらず固有のものではないため、重複の可能性があります。 船籍の登録はMMSI番号に割り当てられ、船舶が船籍を変更した場合、そのMMSI番号は別の船舶に割り当てられる場合もあります。 中国のように、選択的にMMSI番号を共有している船もあります。この場合、同時に2つの場所で船の位置情報が「なりすまし」として表示されることになります。


4. 意図して設計されたわけではありませんが、VHF信号は衛星によっても感知されます。

そのため地上受信局から数百マイル離れた海の真ん中であっても、AIS信号を受信することが可能です。


【欠点】衛星軌道の性質のため、衛星AIS受信機は、定位置の地上受信機ほどAIS情報を得ることができません。 また衛星によって受信されるVHF信号はタイムスロットを用いないため、衛星によって得られたAISデータは、 地上受信機よりきめの細かい船舶の位置情報を提供しているわけではありません。

衛星AISの軌道とデータのルーティング

【図3】衛星AISの軌道とデータのルーティング


5. AISデータは自己申告なので、改ざん(不正)が可能であることは否定できません。

次のような様々な理由から起こりえます。

  • AIS送受信装置の電源が当直航海士によって手動で切られること「ゴーイング・ダーク(Going Dark)」が考えられます。
  • GPS操作と機能停止。AISはGPSと同じではありませんが、AISデータはGPSデータを活用して正確さが確認されます。 GPSの情報が正しくない場合には、AIS情報が無効化されてしまいます。
  • 船長がAISに目的港をあえて入力しない可能性もあります。

【欠点】受信機や送受信機は、ネットワークを作る技術的な部分で、それゆえAISは技術的な不具合や操作の影響を受けます。 海事情報提供者は完璧な「常時接続」AISネットワークを提供することはできません。 規制や防衛目的のために船舶を追跡する際には、この技術的な脆弱性のために、人の目視によって確認される寄港、出港以外は、 船舶動静がわからない可能性があります。


6. AIS受信技術は、コンピュータシステムのような機器の不具合にも影響されます。

【欠点】集中型サーバーにAIS信号を送信するためには、AIS受信機は、電力とインターネット接続が常時必要です。 どんなコンピューター技術であっても、インターネット接続が悪く停電が頻繁に起こる地域では機器の不具合が起こり得ます。 AISアンテナは、落雷のような悪天候に影響を受けることもあります。 AIS受信機がオフラインになり、その後、船舶のAISの送信信号が受信されないということも起こりうるのです。

 AISテクノロジーの欠点を克服するには?

ロイズリストインテリジェンスはAIS特有の欠点の解決策を開発しました。


1. AISデータをチェックし整理するエキスパートアナリストからなる専門チーム

AISデータはそのまま鵜呑みにするのではなく、データの不一致やエラーを明らかにする専門家の分析が必要です。 ロイズリストインテリジェンスのデータ統合センターでは、地上配備のAIS信号と衛星AISの信号、地上のネットワークエージェントからの情報を 組み合わせて利用するため、ロイズリストインテリジェンスのAISデータは包括的で、データベース登録前に、 「なりすまし」やIMO番号の重複といった船舶位置情報の相違を明らかにし、調査・検証が可能です。 そのためロイズリストインテリジェンスが、最も包括的で正確な船舶配備の情報を提供することができるのです。 また直接アナリストにデータに関してお問い合わせをいただくことも可能です。


ロイズリストインテリジェンスでは、機器の不具合や障害による通信不可の受信機を確認するプロセスを実施しています 。積極的にこれらの事例を調査して、顧客に可能な限り最も一貫したサービスが提供できるよう、できるだけ早くデータの停止期間を解消します。


2.港への寄港・出港を確認する地上での人的ネットワーク

たとえ船舶がAISのスイッチを切ったり、機器の不具合があったとしても、ロイズリストインテリジェンスでは船舶の寄港および出港の状況を追跡し、 報告することが可能です。ロイズリストインテリジェンスのみが有するロイズエージェントネットワークにより他社が入手できない情報提供が可能です。 世界の400以上の港はAISではカバーされておらず、これらの港をモニターしたい場合には、港のエージェント記録に頼らなければなりません。 制裁対象地域や船舶が故意に動静を知られる港湾でも当社ネットワークにより独自の情報収集が可能です。

ロイズリストインテリジェンスの衛星AIS、
		地上AISおよび人的監視のルーティングマップ

【図4】ロイズリストインテリジェンスの衛星AIS、地上AISおよび人的監視のルーティングマップ


3.最新の船舶位置情報を明らかにします

AIS送受信機は電源を切っていたり、あるいは壊れている場合もあり、ロイズリストインテリジェンスの示す位置情報から船舶が遠く離れている可能性があります。 対象船舶の最後に確認できた位置情報から現在どの海域を航行中か推測する必要があるというニーズを理解しています。 そのため、他の海事データプロバイダとは異なり、ロイズリストインテリジェンスのオンラインサービスは、船隊のすべての船舶の最新位置情報を提供します。


4.船舶の次の目的地の正確な画像を得るためのデータ・ソースへのアクセス

港を出港する際には、船舶は次の目的地を港のエージェントに報告します。 人に報告しているので、位置情報は、しばしばAISシステムにキー入力されたものよりも正確です。 乗組員によって入力されたAISの目的地は、入力ミスがあったり、本来の目的地を隠すためにわかりにくいものであったりします。 このような問題に対処するために、ロイズリストインテリジェンスは、できるかぎり正確な情報を提供すべく、 到着予定船舶についての情報を港で収集しています

 結論

AISは極めて有益な船舶動静の情報源であり、船舶追跡産業に大変革をもたらしました。 一方で、ビジネス、コンプライアンスや物流情報のためにAISデータを使う際には、この技術の限界と欠点を理解する必要があります。 AISのみに頼ることは、その技術的な限界と不正確な場合もあることから、重大な事象を引き起こす可能性があります。


AISは、地上の港エージェントなどの人的な情報源と合わせて分析することが不可欠です。 これらの複合的な分析なくして、船舶の正確な動静をつかむことはできません。



AISに関する論文はこちらから【AISに関する論文 その1】 【AISに関する論文 その2】


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